訪問看護の採算ラインとは?黒字経営に必要な利用者数と売上目安【経営者が解説】
訪問看護ステーションを経営していて、
「今の状態で本当に黒字になのだろうか?」と不安を感じたことはありませんか?
実際、赤字から黒字に変わる採算ラインを正確に把握できていないまま経営しているケースは少なくありません。その結果、気づかないうちに赤字に陥り、経営悪化につながることも多く見られます。
そこで本記事では、訪問看護ステーションの採算ライン(損益分岐点)の考え方を解説します。あわせて、黒字化に必要な利用者数や売上の目安、規模別シミュレーションも具体的な数値で紹介します。
この記事を読めば、どうすれば自分のステーションで経営を黒字化できるか判断できるようになるでしょう。次に打つべき改善策を明らかにしたい管理者さんは、ぜひ最後までご覧ください。
株式会社UPDATE 代表取締役(看護師・保健師・MBA) ケアプロ訪問看護ステーション東京にて新卒訪問看護師としてキャリアスタート。その後、訪問看護の現場・マネジメント経験の他、薬局や訪問看護運営するスタートアップ企業で40拠点・年商65億規模の経営を行い、上場企業へのグループインを実現。現在は医療職マネジメント人財を育成するためマネジメントスクールを運営中。
■経歴
2013年 慶應義塾大学 看護医療学部 卒業
2013年 ケアプロ株式会社入社
2019年 株式会社UPDATE(旧:ヘルスケア共創パートナー株式会社) 創業 代表取締役(現職)
2021年 GOOD AID株式会社 取締役(事業譲渡により退任)
2023年 セルフケア薬局 取締役(吸収合併により退任)
2023年 まちほけ株式会社 代表取締役(事業譲渡により退任)
■得意領域
医療系事業の組織マネジメント
教育体制構築
採用戦略・体制構築
教育体制構築
新卒訪問看護師の育成
管理職の育成
■保有資格・学位
看護師
保健師
経営学修士(MBA)
目次
訪問看護における採算ラインの考え方|損益分岐点と黒字化の基本

訪問看護ステーションを黒字化するには、採算ラインを把握することが重要です。ここでは、採算ラインの考え方と重要性について説明します。
採算ラインの基本概念
採算ラインを把握するためには、まず損益分岐点について理解する必要があります。
損益分岐点とは、売上高と総費用(固定費+変動費)が一致するポイントです。つまり、損益分岐点が、黒字と赤字を分ける採算ラインの基準となります。
訪問看護ステーションの場合、固定費には人件費・家賃・車両リース料などが含まれ、変動費には交通費・消耗品費などが該当します。また、訪問看護は費用の70〜80%と大部分を人件費が占めるのが特徴です。そのため、人件費を軸に採算ラインを算出するとよいでしょう。
採算ラインの把握が重要な理由
安定した経営をするためには、まず、採算ラインを把握することが欠かせません。採算ラインを軽視した結果、廃止・休止に追い込まれるステーションは年々増加しています。
全国訪問看護事業協会の令和7年度調査が示すデータでは、令和6年度中の廃止886件・休止355件、合計1,241件にのぼりました。これは過去最多の数字です。
廃止の主な原因は経営難と人材不足ですが、この2つは表裏一体です。採算ラインを下回る経営では十分な給与が払えず、人材が流出し、さらに売上が下がるという悪循環に陥ります。
逆に言えば、自拠点の採算ラインを正確に把握し、ラインを超えるための施策を打てれば、経営は安定します。そのため、感覚ではなく、月ごとに採算ラインに関わる数値を確認し、経営判断していくことが重要です。
訪問看護ステーションの黒字化に必要な4つの経営指標

採算ラインを把握して訪問看護ステーションを黒字化するためには、まず以下の4つの指標を確認しましょう。
- 人件費率80%以下
- 看護師1人当たり月間訪問件数80件以上
- 利用者数10~12人
- 平均単価7,500~9,000円が目安
これは、私がこれまで支援してきた訪問看護ステーションのデータと自社の経営経験から導き出した、黒字経営をしている訪問看護ステーションに共通する経営指標です。
次に、それぞれの数値について詳しく解説します。
指標①:人件費率80%以下
訪問看護ステーションの人件費率は業界平均で70~80%程度であり、費用の大部分を占める最重要指標です。
安定した黒字経営のためには、78%以下を維持することが目安となります。80%を超えると、設備投資や採用に回す資金が不足し、事業の成長が止まるおそれがあります。
指標②:看護師1人当たり月間訪問件数80件以上
看護師1人当たりの月間訪問件数は、生産性を示す最も基本的な指標です。
黒字化しているステーションでは1人当たり月80件以上を安定して維持しています。
1日当たりに換算すると4〜5件です。移動時間を含めた1訪問あたりの所要時間を90分と仮定すると、6〜7.5時間分の訪問活動となり、記録や申し送りの時間を含めても現実的な数字です。
指標③:看護師1人あたり利用者数10~12人
訪問件数を安定して確保するためには、一定の利用者数を維持する必要があります。
看護師1人当たりの適正な利用者数の目安は、10〜12人です。
利用者1人当たりの平均訪問回数を月7〜8回とすると、12人×8回=96件となり、キャンセルや祝日を考慮しても80件以上を維持できます。
指標④:平均訪問単価7,500~9,000円
訪問1件当たりの平均単価は、算定する加算や医療保険・介護保険の比率によって大きく変動します。
黒字化しているステーションでは7,500〜9,000円の範囲に収まっていることが多いです。単価が7,000円を下回っている場合は、加算の算定漏れや医療保険対象者の割合が低い可能性があるので見直してみてください。
訪問看護ステーション規模別の収支シミュレーション

訪問看護ステーションの採算ラインは、常勤看護師の人数によって大きく異なります。ここでは看護師3人・5人・10人体制の月次収支モデルを提示します。
以下のシミュレーションは、平均訪問単価8,000円、看護師1人当たり月80件の訪問が前提です。
看護師3人体制(小規模ステーション)
| 項目 | 金額 |
| 月間訪問件数 | 240件(80件×3人) |
| 月間売上 | 192万円(240件×8,000円) |
| 人件費(管理者含む) | 145万円 |
| 家賃・車両・通信費等 | 25万円 |
| その他経費 | 10万円 |
| 月間総費用 | 180万円 |
| 月間利益 | +12万円 |
| 人件費率 | 75.5% |
看護師3人体制では、月間売上約180万円が採算ラインです。月間利益は12万円で、1人でも欠員が出ると一気に採算割れするリスクがあり、小規模ステーション特有の脆さがあります。
看護師5人体制(中規模ステーション)
| 項目 | 金額 |
| 月間訪問件数 | 400件(80件×5人) |
| 月間売上 | 320万円(400件×8,000円) |
| 人件費(管理者・事務含む) | 235万円 |
| 家賃・車両・通信費等 | 35万円 |
| その他経費 | 15万円 |
| 月間総費用 | 285万円 |
| 月間利益 | +35万円 |
| 人件費率 | 73.4% |
5人体制になると経営にある程度の余裕が生まれます。月間売上285万円が採算ラインです。この規模であれば、月間利益は35万円あり、1人の退職があっても直ちに赤字にはなりにくく、採用活動に投資する余力も確保できます。
看護師10人体制(大規模ステーション)
| 項目 | 金額 |
| 月間訪問件数 | 800件(80件×10人) |
| 月間売上 | 640万円(800件×8,000円) |
| 人件費(管理者・事務・リハビリ含む) | 460万円 |
| 家賃・車両・通信費等 | 55万円 |
| その他経費 | 25万円 |
| 月間総費用 | 540万円 |
| 月間利益 | +100万円 |
| 人件費率 | 71.9% |
10人体制では月間売上540万円が採算ラインとなりますが、スケールメリットにより人件費率が下がり、利益率が向上します。この規模になると、新規拠点展開や教育体制への投資も視野に入ります。
以上のシミュレーションからわかるように、訪問看護ステーションの採算ラインは看護師の人数(規模)によって大きく変動するのが特徴です。そのため、一般的な目安ではなく、自拠点の人員体制・人件費・単価をもとに採算ラインを算出することが重要です。
まずは、自拠点がどの規模に当てはまるのかを把握し、本記事で解説した指標と照らし合わせて、黒字化に必要な数値を明確にしていきましょう。
訪問看護で黒字化するには?5つの具体策を紹介

収益を増やし、採算ラインを超えて安定的に黒字を維持するためには、以下の5つの施策を同時に進める必要があります。
- 訪問件数の最適化
- 加算算定の徹底
- 医療保険比率の見直し
- 採用コストの削減
- 数値管理スキルの向上
一つずつ詳しく解説していきます。
具体策①:訪問件数増加への工夫
訪問件数は売上を左右する最重要指標であり、ここを改善せずに黒字化することはできません。ただし、無理に件数を増やすのではなく、効率よく増やすことが求められます。
ポイントは、移動時間の短縮とスケジュールの最適化です。
- エリアを絞り、移動時間を1訪問あたり15分以内に抑える
- 訪問スケジュールを曜日・時間帯ごとにエリア分けして組む
- キャンセル枠に予備の訪問を入れられるよう、待機利用者のリストを持つ
これらの工夫により、1日あたり0.5〜1件の訪問増が実現でき、月間では10〜20件の増加につながります。
具体策②:加算算定の徹底
訪問看護には多くの加算がありますが、算定漏れが発生しているステーションは非常に多いです。特に以下の加算は見直しの余地が大きい項目です。
- 緊急時訪問看護加算:24時間対応体制を整備し算定する
- 特別管理加算:対象となる利用者を漏れなく把握する
- ターミナルケア加算:看取り対応の体制を整備する
- 複数名訪問看護加算:重症度の高い利用者に適用する
加算算定の徹底だけで、月間売上が30~50万円アップするケースも珍しくありません。
具体策③:医療保険比率の見直し
医療保険の訪問看護は、介護保険と比較して単価が高い傾向があります。特に、特別訪問看護指示書による連日訪問が可能なケースでは、売上への貢献が大きくなります。
医療保険対象者の割合を意識的に高めるには、退院調整室との連携強化や、がん末期・難病患者の受け入れ体制を整えることが効果的です。
具体策④:採用コストの削減
人材紹介会社への手数料は、年収の20〜35%が相場です。年収450万円の看護師を紹介会社経由で採用すると、90〜157万円の紹介料が発生します。これが人件費率を押し上げる大きな要因になっています。
- 自社採用サイトの整備
- SNSやオウンドメディアでの情報発信
- スタッフ紹介制度の導入
- ハローワーク・ナースセンターの活用
これらの方法を利用して紹介会社への依存度を下げることで、採用コストを年間で数百万円単位で削減できます。
具体策⑤:数値管理スキルの向上
最終的に、管理者が数値を読み解き、適切な判断ができるかどうかが成否を分けます。毎月、本記事で解説した4つの経営指標とともに、以下の数値を確認する習慣をつけましょう。
- 売上・訪問件数・平均単価の推移
- 人件費率の推移
- 新規紹介数・終了数のバランス
- スタッフごとの訪問件数
数値を把握することで自拠点の課題が明確になり、黒字化するための手を打つことができるようになります。
関連記事:訪問看護ステーションの黒字化ポイント
訪問看護の経営は難しい?赤字に陥る3つの危険サイン

採算割れして赤字化した状態が続くのは、誰でも避けたいものです。採算割れは突然起こるのではなく、事前にいくつかの危険サインが現れます。以下の3つのサインが見られたら、早急に対策を講じる必要があります。
危険サイン①:看護師1人あたり月間訪問件数60件以下
月間60件以下は、明らかに生産性が不足している状態です。1日あたり訪問数が3件以下の計算になり、移動時間や空き時間が多い可能性があります。
訪問数不足の原因は、利用者数自体が足りていないか、スケジュール管理に問題があるか、あるいは急な休みやキャンセルが多発しているかのいずれかです。原因を特定し、すぐに改善に着手してください。
危険サイン②:新規紹介が月2件以下
訪問看護では、利用者の入れ替わりが常に発生します。利用終了(死亡退院・施設入所・状態改善など)が毎月一定数あるなかで、新規紹介が月2件以下では利用者数が減少し続けます。
新規紹介が少ない場合は、ケアマネジャーや退院調整室との関係構築が不十分であることが多く、営業活動を仕組み化することが重要です。
危険サイン③:人手不足による売上減少
スタッフが退職してから補充までに3ヶ月以上かかっている場合、その間の売上減少は深刻です。看護師1人あたりの月間売上が64万円とすると、3ヶ月の空白は192万円の機会損失に相当します。
採用活動が長期化している場合は、採用チャネルの見直しや、求人条件(給与・働き方・福利厚生)の再設計を検討しましょう。
よくある質問(FAQ)

Q1. 訪問看護ステーションを黒字にするには、何人の利用者がいればよいですか?
看護師の人数や単価によって異なりますが、常勤看護師3人体制の場合、利用者30~36人(看護師1人あたり10~12人)が黒字化の目安です。
ただし、訪問件数・単価・加算算定の状況によって変動するため、自拠点の規模と費用構造をベースに採算ラインを算出することが重要です。
Q2. 開業してからどのくらいの期間で黒字化できますか?
一般的に、開業から黒字化までは6~12ヶ月程度が目安です。ただし、開業前の営業準備の充実度や、地域のニーズ、紹介元との関係構築のスピードによって大きく差が出ます。
開業初期から計画的に新規獲得を進め、月間訪問件数を早期に安定させることがポイントです。
関連記事:訪問看護の開業と年収
Q3. 採算ラインの計算で最も重要な変数は何ですか?
最も影響が大きいのは「人件費」です。訪問看護の費用構造では人件費が70~80%を占めるため、人件費の管理が採算ラインを大きく左右します。
具体的には、「スタッフ数に見合った利用者数を確保できているか」「1人あたりの生産性は十分か」を常にモニタリングすることが重要です。
関連記事:訪問看護の経営は大変?管理者が直面する課題と効果的な解決法
採算ラインを把握することが黒字化への第一歩

訪問看護ステーション経営を安定させるためには、採算ラインを正確に把握することが重要です。まずは、自拠点の4つの指標を数値で確認しましょう。
数値を可視化し、採算ラインを把握することで「なぜ黒字にならないのか」「どこを改善すればいいのか」が明確になります。本記事で解説した考え方と具体策をもとに、ぜひ自拠点の数値を見直し、黒字化に向けた一歩を踏み出してください。
また、訪問看護の経営全体を体系的に学びたい方は、訪問看護ステーション経営ガイドをご覧ください。収益・財務からマーケティング、人材マネジメントまで、経営に必要な知識を網羅的にまとめています。
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関連記事:訪問看護の経営完全ガイド|訪問看護の黒字化・人材定着・組織づくりの全知識
【参考文献】
一般社団法人全国訪問看護事業協会「令和7年度 訪問看護ステーション数 調査結果」
