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訪問看護の経営完全ガイド|訪問看護の黒字化・人材定着・組織づくりの全知識【2026年最新版】

訪問看護の経営完全ガイド|訪問看護の黒字化・人材定着・組織づくりの全知識【2026年最新版】

訪問看護の経営とは、医療保険・介護保険を主な収入源として訪問看護サービスを提供し、人材の確保・定着、収益管理、組織マネジメントを総合的に行う事業運営のことです。 看護専門職による高い専門性と、経営者としてのマネジメント能力の両立が求められる点が、他の事業経営にはない大きな特徴といえます。

2025年4月1日現在、全国の訪問看護ステーション稼働数は18,754ヶ所に達しました(全国訪問看護事業協会 令和7年度調査)。2012年以降の年平均成長率は約8.8%、ステーション数は約3倍に増加しています。令和6年度の新規開設数は過去最高の2,487件を記録しました。

しかし、その裏側では年間886件が廃止、355件が休止——合計1,241件が市場から退場しています。さらに衝撃的なのは、開設年度中に廃止に追い込まれた事業所が69件あるという事実です。訪問看護の経営は、参入障壁の低さと継続の難しさが同居する、極めてシビアな領域なのです。

私は看護師・保健師・MBAの資格を持ち、訪問看護や薬局など40拠点・250名規模の事業マネジメントを経験してきました。年商65億規模の経営を実現し、上場企業へのグループインを達成した経験、そして全国訪問看護事業協会の研修講師としての知見をもとに、この記事では訪問看護経営の全体像を体系的にお伝えします。

目次

この記事でわかること

  • 訪問看護の経営が難しいと言われる5つの構造的な理由
  • 黒字ステーションに共通する4つの経営指標と採算ライン
  • 離職率を下げ、優秀な人材を定着させる仕組みの作り方
  • 組織を蝕む「負のサイクル」の正体と断ち方(UPDATE独自理論)
  • 管理者に必要な6つのスキルとセルフチェック法
  • 2026年度診療報酬改定の経営へのインパクト
  • 小規模ステーションが生き残るための具体的な経営戦略

著者名

執筆者

株式会社UPDATE 小瀨 文彰

株式会社UPDATE 代表取締役(看護師・保健師・MBA) ケアプロ訪問看護ステーション東京にて新卒訪問看護師としてキャリアスタート。その後、訪問看護の現場・マネジメント経験の他、薬局や訪問看護運営するスタートアップ企業で40拠点・年商65億規模の経営を行い、上場企業へのグループインを実現。現在は医療職マネジメント人財を育成するためマネジメントスクールを運営中。

■経歴
2013年 慶應義塾大学 看護医療学部 卒業
2013年 ケアプロ株式会社入社
2019年 株式会社UPDATE(旧:ヘルスケア共創パートナー株式会社) 創業 代表取締役(現職)
2021年 GOOD AID株式会社 取締役(事業譲渡により退任)
2023年 セルフケア薬局 取締役(吸収合併により退任)
2023年 まちほけ株式会社 代表取締役(事業譲渡により退任)

■得意領域
医療系事業の組織マネジメント
教育体制構築
採用戦略・体制構築
教育体制構築
新卒訪問看護師の育成
管理職の育成

■保有資格・学位
看護師
保健師
経営学修士(MBA)

訪問看護の経営が難しいと言われる5つの理由

訪問看護の経営課題とは、人件費率の高さ、管理者のマネジメント経験不足、慢性的な人材不足、報酬入金のタイムラグ、そして高い廃止率に代表される構造的な経営リスクの総称です。 これらは単独ではなく複合的に絡み合い、経営を困難にしています。

人件費率78%という構造的な壁

訪問看護は「人がサービスそのもの」です。そのため、人件費率は売上の70〜80%を占め、一般的な中小企業(40〜60%程度)と比べて極めて高い水準にあります。

さらに深刻なのが、採用コストの問題です。人材紹介会社を利用した場合、紹介料は年収の20〜35%が相場です。年収450万円の看護師を1名採用するだけで90〜135万円のコストが発生します。人件費率が既に高い訪問看護において、この採用コストは利益を大きく圧迫する要因となります。

管理者がマネジメントを学ぶ機会がない

大阪府訪問看護ステーション協会の調査によると、約半数の管理者が管理者研修を受講していないという実態があります。看護師としては優秀でも、経営やマネジメントについて体系的に学ぶ機会がないまま管理者になるケースがほとんどです。

私自身、訪問看護や薬局40拠点の経営を通じて痛感したのは、「医療業界はそもそもマネジメントを学びにくい環境にある」ということです。病院での看護教育は臨床スキルが中心であり、人材管理・数値管理・組織運営といったマネジメント領域の教育は制度として組み込まれていません。管理者研修の受講は、組織を変える第一歩になります。

離職率16.7%と採用難の二重苦

神奈川県の2023年度調査によると、訪問看護師の離職率は16.7%に上ります。さらに深刻なのは、経験3年未満の看護師の離職率が20%超という点です。せっかく採用・育成した人材が定着しないのです。

事業所の規模別に見ると、常勤換算5名以下の小規模ステーションでは離職率が23.2%に達します。小規模事業所ほど一人ひとりの負担が大きく、教育体制の整備も難しいため、離職が離職を呼ぶ悪循環に陥りやすい構造があります。

訪問看護師が辞める理由と離職の実態を理解することが、対策の第一歩です。

報酬入金タイムラグによる資金繰りリスク

訪問看護の報酬は、サービス提供月の翌月にレセプト請求を行い、実際に入金されるのはさらにその翌月——つまりサービス提供から約2ヶ月後です。開業直後は利用者数が少なく売上が限られる一方で、人件費・家賃・車両費などの固定費は初月から発生します。

この資金繰りのギャップを見誤り、運転資金が枯渇するケースは珍しくありません。最低でも6ヶ月分、できれば12ヶ月分の運転資金を確保した上で開業に臨むべきです。

年間廃止・休止1,241件の現実

全国訪問看護事業協会の令和7年度調査が示すデータは、訪問看護経営の厳しさを如実に物語っています。令和6年度中の廃止886件・休止355件、合計1,241件。そして開設年度中に廃止された事業所が69件。つまり約36件に1件の新規開設事業所が、1年持たずに撤退しているのです。

訪問看護の開業失敗パターンを事前に知っておくことで、同じ轍を踏むリスクを大幅に減らすことができます。

市場は拡大しています。しかし、その成長の恩恵を受けられるのは、構造的な課題を理解し、正しい経営戦略を実行できる事業者だけなのです。

訪問看護経営の収益構造と採算ライン

訪問看護の収益構造とは、医療保険と介護保険の2つの公的保険制度を主な収入源とし、基本報酬に各種加算を積み上げることで売上を構成する仕組みのことです。 人件費率の管理と加算の算定漏れ防止が、黒字化の鍵を握ります。

医療保険と介護保険の収入構造

訪問看護の収入は、大きく分けて医療保険介護保険の2つの公的保険制度から成り立っています。

介護保険は、65歳以上の要介護・要支援認定を受けた方が主な対象です。訪問看護費はサービス提供時間と訪問回数に応じた単位数で算定され、地域区分ごとの単価が適用されます。利用者は原則1〜3割を自己負担し、残りが保険から支払われます。

医療保険は、40歳未満の方や、がん末期・難病など厚生労働大臣が定める疾病の方が対象となります。一般的に医療保険の訪問看護は介護保険より単価が高い傾向にあり、特に特別管理加算やターミナルケア加算などの高単価加算は、収益を大きく左右します。

経営上重要なのは、医療保険と介護保険の構成比バランスを意識することです。医療保険の割合が高い事業所は1件あたりの単価が高くなりやすいですが、利用者の状態変化に伴う変動リスクも大きくなります。安定経営のためには、両保険のバランスの取れたポートフォリオを構築することが重要です。

黒字ステーションに共通する4つの経営指標

訪問看護の経営は儲かるのか?黒字化のポイントを突き詰めると、黒字ステーションには共通する4つの経営指標が浮かび上がります。

人件費率80%未満を維持する

売上に対する人件費率が80%を超えると、家賃・車両費・消耗品費などの固定費を賄うことが極めて困難になります。黒字ステーションの多くは人件費率を70〜78%の範囲でコントロールしています。

常勤換算5名以上の体制を確保する

前述の通り、5名以下の小規模ステーションは離職率が23.2%と高く、経営の安定性に欠けます。常勤換算5名以上の体制を早期に構築することが、黒字化への必要条件です。

訪問エリアの半径を狭く設定する

移動時間は直接売上につながりません。訪問エリアを事業所から片道20分以内に絞ることで、1日あたりの訪問件数を最大化できます。「広く薄く」ではなく「狭く深く」が鉄則です。

高単価加算を積極的に算定する

専門管理加算をはじめ、特別管理加算、ターミナルケア加算、退院時共同指導加算など、算定要件を満たしているにもかかわらず算定漏れを起こしている事業所は少なくありません。加算の取得漏れは「見えない損失」です。

「私が40拠点の経営で学んだのは、『規模を大きくすること自体が最大のリスクヘッジ』だということです。規模が大きくなれば、一人当たりのオンコール回数を減らせる、2番待機の人員を設けられる、管理者が管理業務に集中できる——これらすべてが離職率の低下とサービス品質の向上につながります。」

📺 あわせて観たい動画:「利益にならないけど絶対やるべき施策」

経営者の年収モデルと規模別シミュレーション

訪問看護の開業と年収は、事業規模と経営フェーズによって大きく異なります。

フェーズ目安年収備考
1年目(立ち上げ期)400〜600万円自身も訪問に出ながら経営。赤字の可能性も
2〜3年目(安定期)600〜800万円利用者数が安定し、黒字化を実現
4年目以降(中規模化)800〜1,000万円超複数名体制で管理者を配置、経営に専念

初期費用は300〜700万円程度が目安です。事務所の賃貸契約・内装工事、車両購入またはリース、電子カルテ・レセプトソフト導入、人材採用費、そして最低6ヶ月分の運転資金を含めた資金計画が必要です。

注意すべきは、これらの年収はあくまで「適切な経営ができた場合」のモデルであるという点です。前述の通り、開設年度中に69件が廃止されている現実を忘れてはなりません。訪問看護ステーションが乱立する中、新規依頼が計画通りに増加しない、レセプトの返礼による入金の遅れ、急な退職に伴う採用費の発生など、最悪のシナリオも想定し、資金は1,200~1,800万程度準備しておくと安心です。

訪問看護の人材確保と離職を防ぐ仕組みづくり

訪問看護の人材確保・定着とは、採用段階でのミスマッチ防止、入職後のオンボーディング設計、継続的な教育体制の構築、そして公平な評価・報酬制度の整備を通じて、看護師が長く働き続けられる組織環境をつくることです。 訪問看護の最大の経営資源は「人」であり、人材戦略は経営戦略そのものといえます。

12の離職原因と3つの定着戦略

訪問看護師の離職原因を分析すると、大きく12の要因に整理できます。

  1. 業務手順が未整備——マニュアルがなく、人によってやり方が違う
  2. 病院での経験が活かせない——在宅は病院とは全く異なる環境
  3. 教育体制が不十分——一人で訪問するため学ぶ機会が限られる
  4. 役割の違いに戸惑う——「治す看護」から「支える看護」への転換
  5. オンコール負担——夜間・休日の精神的プレッシャー
  6. 体力的負担——移動・入浴介助・一人での対応
  7. 理想と現実の乖離——思い描いていた訪問看護と違う
  8. 「支える看護」への転換困難——急性期マインドが抜けない
  9. 多職種協働の難しさ——ケアマネ・医師・ヘルパーとの連携ストレス
  10. 有給が取りにくい——少人数体制で代替要員がいない
  11. 管理者の個性が強すぎる——ワンマン運営でスタッフが萎縮
  12. 負担と給与の不公平感——頑張っている人ほど損をする

📺 あわせて観たい動画:「『辞めたい。』訪問看護師の離職につながる12個の原因」

東京都福祉局の調査では、訪問看護師の定着に必要な要素として「給与66.2%」「人材育成支援48.3%」「OJT35.7%」が上位に挙がっています。また同調査では、黒字経営の事業所ほど研修が充実しているという相関関係も示されています。

つまり、教育投資は「コスト」ではなく「リターンのある投資」なのです。

定着戦略は以下の3つに集約されます。

戦略① 公平な評価と納得感のある報酬設計

戦略② 段階的なスキルアップを支える教育体制の構築

戦略③ 心理的安全性の高い組織風土づくり

UPDATE流「ありのまま採用面接」の考え方

優秀な人材を集める3つの戦略の中でも、私が最も重視しているのが「ありのまま採用面接」です。

「正直に言うと、手厚い研修プログラムはまだ整っていません。でも、あなたと一緒にこれからの組織を作っていきたいんです。」——この姿勢こそが、入職後のギャップを防ぎ、主体性の高い人材を獲得する最も確実な方法です。

採用面接で自社を必要以上に良く見せようとする経営者は少なくありません。しかし、入職後に「聞いていた話と違う」と感じたスタッフが定着するはずがありません。組織の現状を正直に伝え、課題も共有した上で「一緒に組織を作っていきたい」と伝える。この誠実さに共感してくれる人材こそ、組織にとって本当に必要な仲間です。

さらに言えば、必要に応じて他社を勧める勇気を持つことも大切です。「この方はうちよりもA社の方が合っている」と判断したら、正直にそう伝える。短期的には採用機会を逃しますが、長期的には採用のミスマッチを防ぎ、組織の一体感を守ることにつながります。

📺 あわせて観たい動画:「採用してはいけない人の特徴」

採用してはいけない人の7つの特徴もあわせて確認しておきましょう。

新人がつまずく5つの壁とオンボーディング設計

新人訪問看護師がつまずく5つの壁を理解し、事前にオンボーディングプログラムに組み込むことが重要です。

壁①「一人で判断する不安」——病院では先輩や医師がすぐそばにいたが、訪問先では自分だけ。

壁②「生活の場に入る戸惑い」——医療機関とは異なる環境での看護に慣れるまでの葛藤。

壁③「時間管理の難しさ」——移動時間を含めたスケジューリングに苦労する。

壁④「多職種連携の壁」——ケアマネジャーや主治医とのコミュニケーション方法がわからない。

壁⑤「精神的な孤立感」——悩みを共有する同僚が近くにいない。

効果的なオンボーディング設計のポイントは、最初の3ヶ月間の同行訪問計画を明確にすること週次の振り返り面談を制度化すること、そしていつでも相談できるメンター制度を設けることです。「放置」は離職の最大の原因になります。

報酬設計の落とし穴

インセンティブ制度は、正しく設計しなければ「件数ありきの利己的な組織」を生み出します。

訪問件数に連動したインセンティブは一見合理的に見えますが、「量をこなすこと」が目的化すると、一件ごとのケアの質が低下し、スタッフ間の協力体制も崩壊します。「自分の件数を増やすために他のスタッフの依頼を断る」「重症度の高い利用者を避ける」——こうした行動が組織文化を蝕むのです。

報酬設計は、個人の訪問件数だけでなく、チーム全体の成果・利用者満足度・教育への貢献度など、多角的な評価基準を組み込むべきです。

📺 あわせて観たい動画:「インセンティブ制度の落とし穴」

人材定着のためのサプライズ活用法退職面談でやってはいけないNG行動も、定着率向上に役立つ知見です。

“負のサイクル”を断つ——訪問看護の組織マネジメント

訪問看護の「負のサイクル」とは、優秀なスタッフが離職し、基準の低い人材だけが残ることで組織が劣化していく悪循環のことです。株式会社UPDATEが40拠点の経営経験から体系化した概念であり、多くの訪問看護ステーションが無自覚のうちにこのサイクルに陥っています。

負のサイクルが始まる3つの原因

負のサイクルの詳細を理解することが、組織崩壊を防ぐ最初の一歩です。

原因① 理念と運営のバランス崩壊

「目の前の対応を優先するうちに判断基準が曖昧になる。『とりあえず今は仕方ない』が積み重なり、理念が形骸化する。」——これは多くのステーションで起きている現象です。開設時に掲げた理念やビジョンは、日々の忙しさの中で少しずつ後退していきます。利用者からのクレーム対応、スタッフのシフト調整、急な欠勤への対処……目の前の問題に追われるうちに、「何のためにこの事業をやっているのか」という根本的な問いが置き去りにされるのです。

原因② 人手不足で歪む管理者の判断

「退職されるのが怖くて、本来すべき指導を避ける。基準に満たないスタッフの行動を黙認する。」——人手不足が慢性化すると、管理者は「辞められたら困る」という恐怖心から、本来伝えるべきことを伝えなくなります。遅刻を注意しない、報告の不備を見て見ぬふりをする、利用者への対応の質が低下しても指摘しない。こうした「見て見ぬふり」の積み重ねが、組織の基準を徐々に引き下げていきます。

原因③ 基準の低下と組織の変質

「一度基準を下げると、理念に共感していた優秀層が『ここは自分の居場所ではない』と静かに離脱する。彼らは当たり障りのない理由で辞めるため、管理者が深刻さに気づきにくい。」——これが負のサイクルの最も恐ろしい点です。優秀な人材は声を荒げて不満を述べることはしません。静かに転職活動を始め、「家庭の事情で」「体調の問題で」といった表面的な理由を告げて去っていきます。残るのは、低い基準でも居心地の良さを感じる人材です。こうして組織は確実に劣化していきます。

📺 あわせて観たい動画:「訪問看護マネジメントの負のサイクル」

「やさしさ主義」の罠

優しいだけの看護管理は危険?——この問いに、多くの管理者はドキッとするはずです。

「やさしさ主義」には3つの重大なリスクがあります。

リスク① 頑張っている人が損をする不公平な環境になる

基準を守らないスタッフと同じ評価・待遇を受けることに、努力している人材は強い不満を感じます。「なぜあの人は注意されないのに、自分だけ頑張らなくてはいけないのか」——この不公平感は、最も優秀な人材から順に退職を決意させます。

リスク② 成長機会を奪い、組織全体が停滞する

「指摘しない=優しい」ではありません。課題を伝えないことは、その人の成長機会を奪っているのと同じです。結果として組織全体のスキルレベルが停滞し、サービスの質も向上しません。

リスク③ やる気のある人が辞め、組織崩壊へ向かう

負のサイクルの原因②③と直結します。やさしさ主義は、短期的には穏やかな組織に見えますが、中長期的には組織崩壊のトリガーになります。

真の優しさとは『みんな』を守ることではなく、理念に共感し努力する『仲間』を守ることです。最初に『軸』を徹底的に共有し、その軸に基づいた公平な基準を設ける。これが組織を守る唯一の方法です。」

📺 あわせて観たい動画:「9割が陥る!優しさ主義の訪問看護マネジメント」

管理者が陥りがちな「8つの課題」セルフチェック

管理者が陥る8つの課題は、私が40拠点の経営経験から体系化したものです。

  1. 共通目的の不在——チームが何を目指しているのか共有されていない
  2. ブレブレ判断——状況によって言うことが変わり、スタッフが混乱する
  3. なけなしの自信——管理者としての自信がなく、決断を先延ばしにする
  4. やさしさ主義——前述の通り、指摘を避けて組織基準を下げてしまう
  5. 言葉足らず——意図が正確に伝わらず、誤解やすれ違いが生じる
  6. 数値拒絶——「看護に数字は関係ない」と経営数値から目を背ける
  7. 誤った人事——感情や個人的な好みで人事判断を行う
  8. 独りよがりリーダー——自分の考えだけで突き進み、チームの声を聞かない

全員がそのリスクを持っていて、程度が違うだけです。各項目に0〜10の点数をつけ、信頼できる上司や同僚にも同じ採点をしてもらうことで、自分の課題が明確になります。自己評価と他者評価のギャップにこそ、成長のヒントがあるのです。”組織の器はトップの器で決まる“——この言葉を常に胸に刻んでおくべきです。」

📺 あわせて観たい動画:「訪問看護管理者が陥る8つの課題」

負のサイクルを断つ3つの考え方

理念を軸にした判断を徹底する

「今、この判断は理念に沿っているか?」を常に問い続けること。目の前の利便性や効率性に流されず、理念を判断基準の中心に置き続ける覚悟が必要です。

基準を下げないための決断力を持つ

時に厳しい判断を下す場面があります。基準に達しないスタッフへの指導、改善が見られない場合の配置転換——こうした判断から逃げないことが、組織を守ることにつながります。管理者のNG特徴6選に該当しないか、定期的に自己点検しましょう。

管理者が抱え込まない体制を構築する

管理者一人にすべてを背負わせる組織は脆弱です。リーダーの資質を持つ次世代リーダーを育成し、チームワークを活性化する仕組みを構築することが不可欠です。また、外部のコーチやメンターを活用し、管理者自身が客観的な視点を得る機会をつくることも重要です。

好循環を生むフィードバックの技術

効果的なフィードバックの技術は、負のサイクルを好循環に転換するための実践的なスキルです。

よくある3つの失敗:

失敗① 一方通行のフィードバック——管理者が一方的に伝え、相手の話を聞かない。スタッフは「言われた」という記憶だけが残り、行動変容にはつながりません。

失敗② 役職の圧で押すフィードバック——「管理者として言うけど」「上の立場から言わせてもらうと」という前置きは、相手の防衛反応を引き出すだけです。

失敗③ 諦めのフィードバック——「何度言っても変わらない」と諦め、伝えること自体をやめてしまう。これは前述の「やさしさ主義」に直結します。

効果的な3つのポイント:

ポイント① 瞬発力——課題を感じたら、その場で・その日のうちに伝える。時間が経つほど記憶は曖昧になり、フィードバックの効果は薄れます。

ポイント② 事実と組織視点で伝える——「あなたの態度が悪い」ではなく、「今日のカンファレンスで〇〇という発言があったが、チームとしての方針と異なっている」と、具体的な事実と組織の視点から伝えます。

ポイント③ 日頃の仲間関係が土台——フィードバックは信頼関係の上に成り立ちます。普段からコミュニケーションを取り、「この人は自分のことを思って言ってくれている」と感じてもらえる関係を築いておくことが大前提です。

📺 あわせて観たい動画:「管理者がやりがちなフィードバックの失敗」

危険な看護管理者5つの特徴に心当たりがある方は、まずフィードバックの仕方から見直してみてください。

訪問看護の管理者に必要な6つのスキル

訪問看護の管理者スキルとは、臨床能力に加えて、理念の言語化・数値管理・公平な判断力・フィードバック力・採用の見極め・自己研鑽の6つの領域を実践できる力のことです。 看護師としての優秀さと管理者としての有能さは、全く異なるスキルセットです。

理念を言語化し浸透させるスキル

経営者・管理者が「何を大切にしているか」を具体的な言葉にし、繰り返し伝える力です。理念が曖昧な組織は、判断基準が属人化し、負のサイクルに陥りやすくなります。

数値で経営を語るスキル

「看護に数字は必要ない」という思い込みは、8つの課題の「数値拒絶」に該当します。人件費率・訪問件数・加算算定率・稼働率——これらの数値を把握し、スタッフにも共有できることが、健全な経営の基盤です。

公平な基準で判断するスキル

感情や個人的な好みではなく、理念に基づいた公平な基準で判断を下す力です。「この人は古株だから」「この人は気が弱いから」という配慮は、長期的には組織を蝕みます。

フィードバックを恐れないスキル

良いことも改善すべきことも、タイムリーに伝える力です。前述のフィードバック技術を実践し、「言うべきことを言える管理者」であることが、組織の健全性を保ちます。

採用で見極めるスキル

組織の理念に合う人材かどうかを、面接段階で見極める力です。スキルの高さだけでなく、価値観の一致度・主体性・チームへの適合性を重視した採用判断が求められます。

自ら学び続けるスキル

管理者自身が成長を止めた組織に、発展はありません。管理者研修への参加、書籍・セミナーでの学習、他の経営者との交流——学びの機会を自ら作り出す姿勢が、組織全体の成長を牽引します。

管理者にしてはいけない人材の6つの特徴——感情の起伏が激しい、他責思考、役職の圧で押す、プライベートの感情を持ち込む、自分の考えを押し付ける、組織全体の視点が欠如——は、これら6つのスキルの真逆にある行動です。」管理者にしてはいけない人の特徴を理解することは、目指すべき管理者像を明確にすることでもあります。

訪問看護の開業と経営戦略

訪問看護の開業・経営戦略とは、市場分析・事業計画策定・資金調達・人材確保・営業活動・組織設計を一体的に計画し、持続可能な事業基盤を構築するための総合的な取り組みのことです。 新規参入が容易な一方で、生存競争が激化する市場では、明確な戦略なき開業は失敗に直結します。

新規2,487件・廃止886件の時代をどう生き抜くか

全国訪問看護事業協会の令和7年度調査によると、2025年4月1日現在の訪問看護ステーション稼働数は18,754ヶ所。令和6年度の新規開設は過去最高の2,487件に達しました。一方で廃止は886件、休止は355件、合計1,241件が市場から退場しています。

特に注目すべきは、開設年度中の廃止が69件あるという点です。これは新規開設2,487件の約2.8%にあたり、「開業したものの1年以内に事業継続を断念した」ことを意味します。

都道府県別では、大阪2,222ヶ所、東京1,768ヶ所、愛知1,262ヶ所、神奈川1,161ヶ所、福岡1,051ヶ所がトップ5です。最多の大阪と最少の鳥取(75ヶ所)では約30倍の差があり、都市部での競争は極めて激しい状況です。

この環境で生き残るためには、「なんとなく」の開業ではなく、データに基づいた市場分析と明確な差別化戦略が不可欠です。

小規模スタートで軌道に乗せる3ステップ

ステップ① エリア選定と需要調査

開業予定地域の要介護認定者数、既存ステーション数、地域包括支援センターや居宅介護支援事業所の分布を徹底的に調査します。競合が少なく需要が見込めるエリアを選定することが、立ち上げの成否を分けます。

ステップ② 最小限の体制で黒字化を最優先

開業時は常勤換算2.5名の最低基準でスタートし、まずは利用者30名・月商200〜240万円を最初のマイルストーンに設定します。この段階では経営者自身も訪問に出て、一件一件のケアを通じて地域の信頼を獲得していきます。

ステップ③ 黒字化後、速やかに規模拡大へ舵を切る

小さく始めて大きく育てる。ただし、小規模のまま留まることが最大のリスクです。スタッフ5名以下の小規模施設は離職率23.2%。規模の拡大こそが人材定着・サービス品質・経営安定を同時に解決する唯一の戦略です。」

黒字化を達成したら、利益を人材採用と教育に再投資し、常勤換算5名以上の体制を早期に目指すべきです。

「一般企業なら分業されること」を一人でやる覚悟

一般企業であれば、営業部・経理部・人事部・総務部がそれぞれの専門領域を担当しています。しかし小規模ステーションでは、これらすべてを管理者一人が担うのが現実です。

営業活動(ケアマネへの挨拶回り)、経理業務(レセプト請求・資金管理)、人事業務(採用・面接・労務管理)、総務業務(備品管理・車両管理・各種届出)——加えて、自らも訪問に出てケアを提供する。この負担の大きさが、管理者の疲弊と離職を招く一因になっています。

早期に組織化・仕組み化に投資することが、生存率を上げる最大の策」です。業務マニュアルの整備、レセプト業務の外注化、ICTツールの導入——一つひとつの業務を「属人化」から「仕組み化」に転換していくことが、持続可能な経営の土台になります。

2026年度診療報酬改定と訪問看護経営への影響

2026年度(令和8年度)診療報酬改定とは、2年ごとに行われる医療サービスの公定価格の見直しであり、訪問看護の基本報酬・加算体系の変更を通じて、ステーション経営に直接的な影響を与える制度改定のことです。 改定内容を正確に把握し、経営計画に反映させることが不可欠です。

改定率+3.09%の経営インパクト

2026年度の診療報酬改定は、全体で+3.09%という比較的高い改定率が示されています。内訳は令和8年度が+2.41%、令和9年度が+3.77%、緊急対応分が+0.44%となっています。

訪問看護にとって、プラス改定は基本報酬の底上げを意味します。ただし、この恩恵を最大限に活かすためには、算定要件の変更点を正確に理解し、取りこぼしなく算定できる体制を整える必要があります。

訪問看護ベースアップ評価料の活用法

看護師の処遇改善を目的とした訪問看護ベースアップ評価料は、経営者が注目すべき報酬です。

評価料Iは1,050円に設定されており、すべての訪問看護利用者から算定可能です。評価料IIは従来の18区分から36区分に細分化され、事業所の実態に合わせたきめ細かな算定が可能になりました。

具体的な経営インパクトを試算すると、利用者80人規模のステーションで年間約100〜200万円の人件費原資を確保できる計算になります。この評価料を確実に算定し、スタッフの給与に反映させることが、人材定着にも直結します。医療業界全体で人材の確保が課題になっていますので、中長期的な施策として取得を目指してましょう。

機能強化型訪問看護ステーションの評価

ターミナルケアや重症児に対する手厚い体制、地域の訪問看護の人材育成などを評価する機能強化型訪問看護ステーションは、各ステーションが要件達成を目指すべき報酬制度です。

令和8年度の診療報酬改定においては、機能強化型訪問看護管理療養費1が530円、機能強化型訪問看護管理療養費2が430円、機能強化型訪問看護管理療養費3が330円の増額となっています。また、重点的支援を要する精神障害を持つ利用者への訪問を評価する機能強化型訪問看護管理療養費4も新設されました。

今後もより専門性が高い訪問看護ステーションの評価が高まっていくことが予想され、着実にステーションの体制を整え、これらの要件を満たしてくことが求められます。

ICT活用で取れる新加算

デジタル化の推進に伴い、ICT活用に関連する新加算も注目です。

訪問看護医療情報連携加算(1,000円/月)は、主治医や他の医療機関と電子的に情報連携を行った場合に算定できます。電子カルテやICTツールを活用した情報共有体制を構築することが算定要件です。

訪問看護遠隔診療補助料(2,650円/日)は、訪問看護師が利用者宅で遠隔診療を補助した場合に算定できます。医師の遠隔診療を訪問看護師がサポートするという新たな連携モデルに対する評価です。

専門管理加算や機能強化型の要件も含め、加算の算定漏れは「取れるはずの収入を捨てている」のと同じです。定期的に算定状況を棚卸しし、取得漏れがないか確認する習慣をつけましょう。

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訪問看護の経営を成功させるために

訪問看護経営の成功とは、単なる黒字化だけでなく、理念に基づいた組織運営、スタッフの定着と成長、利用者へのサービス品質の向上、そして持続的な事業発展を同時に実現することです。 そのためには、経営者・管理者自身が最も成長し続ける存在であることが求められます。

経営課題の優先順位

訪問看護経営の改善に取り組む際、以下の順序で着手することをお勧めします。

負のサイクルの自己診断

まず、自分の組織が負のサイクルに陥っていないかを客観的に診断します。「基準を下げていないか」「優秀な人材が辞めていないか」「見て見ぬふりをしていないか」——正直に向き合うことから始めてください。

② 8つの課題セルフチェック

管理者自身の課題を数値化します。各項目に0〜10の点数をつけ、信頼できる人にも採点してもらいましょう。自己認識と他者認識のギャップが、最も大きな成長のヒントになります。

人件費率と訪問件数の現状把握

経営数値の「見える化」に取り組みます。月次で人件費率・一人当たり訪問件数・利用者数の推移を把握し、黒字ラインとの差を明確にします。

加算の取得漏れ確認

算定できる加算をすべて洗い出し、取得漏れがないかチェックします。特にベースアップ評価料は、多くの事業所で算定の余地があります。

経営者・管理者自身が学び成長し続けること

“組織の器はトップの器で決まる”——管理者・経営者自身が学び成長し続けることが、最も重要な経営投資です。

これは私が40拠点の経営を通じて得た、最も重要な教訓です。どんなに優れた制度やマニュアルを整備しても、トップの器以上に組織は成長しません。逆に、トップが成長し続ける限り、組織には無限の可能性があります。

株式会社UPDATEでは、訪問看護の経営者・管理者の成長を支援する3つのサービスを提供しています。

① 訪問看護 組織マネジメント基礎研修(全12回オンデマンド講義+個別面談3回)

負のサイクル、8つの課題、フィードバック技術、採用戦略、数値管理——本記事で紹介した内容を、講義と個別面談で実践的に学ぶプログラムです。全国の訪問看護管理者・経営者が参加しています。

➡︎ 「訪問看護 組織マネジメント基礎研修」サービスサイト

② 訪問看護マネジメントコーチ

月次の1on1コーチングやチャット相談、経営ナレッジの共有で、経営課題の解決を伴走支援します。「何が課題かわかっているが、一人では行動に移せない」という方に最適です。

➡︎ 「訪問看護マネジメントコーチ」サービスサイト

訪問看護経営・マネジメントコミュニティ

志を同じくする訪問看護経営者同士が、経営課題を共有し、互いに学び合うコミュニティです。孤独になりがちな経営者にとって、同じ立場の仲間の存在は大きな支えになります。

訪問看護の経営に正解はありません。しかし、正しい知識と仲間を持ち、学び続ける姿勢があれば、必ず道は拓けます。この記事が、あなたの経営をより良い方向に導く一助となれば幸いです。

よくある質問(FAQ)

Q1. 訪問看護ステーションの経営改善で最初に取り組むべきことは何ですか?

まずは自組織の「負のサイクル」の有無を診断し、8つの課題のセルフチェックを行いましょう。経営改善は、経営者・管理者自身の現状認識から始まります。UPDATEの組織マネジメント講座では、この自己診断から始める体系的なプログラムを提供しています。

Q2. 訪問看護の経営で黒字化の目安となる経営指標はありますか?

スタッフの訪問稼働率の管理が非常に重要で、UPDATEのマネジメントコーチでも経営の安定化に向け、最初に管理体制構築に取り組むことが多いです。訪問看護は、訪問件数とスタッフのキャパシティーの両方が変動するため2〜3ヶ月先を見据えた稼働率の管理が重要です。

Q3. 訪問看護の管理者に向いていない人の特徴はありますか?

感情の起伏が激しい、他責思考、役職の圧で押す、プライベート感情を持ち込む、自分の考えを押し付ける、組織全体の視点が欠如——これら6つの特徴が顕著な方は管理者適性に課題があります。ただし重要なのは、すべての人にこれらの傾向があり、程度の違いだけという点です。

Q4. 訪問看護の開業に必要な初期費用はいくらですか?

初期費用は300〜700万円が目安です。事務所の賃貸・内装、車両、電子カルテ、採用費に加え、最低6ヶ月分の運転資金が必要です。報酬入金は最短でも2ヶ月後になるため、資金計画は余裕を持って立てましょう。最悪のシナリオも想定し、1,200〜1,800万円の資金があると安心です。

Q5. 訪問看護の人材採用で最も重要なポイントは何ですか?

スキルの高さよりも、組織の理念への共感度と価値観の一致を重視することです。組織の現状を正直に伝え、課題も共有した上で「一緒に事業や組織を作りたい」と伝えることが重要です。このような誠実な姿勢が入職後のミスマッチを防ぎます。

Q6. 2026年度の診療報酬改定は訪問看護経営にどう影響しますか?

改定率+3.09%のプラス改定で、基本報酬の底上げが期待できます。特に機能強化型訪問看護ステーションは評価がより高くなり、今後も専門性の高い訪問看護ステーションの評価が高まることが予想されます。UPDATEのマネジメントコーチでは、改定内容を経営計画や戦略に反映するサポートも行っています。

参考文献・出典

本記事で引用したデータの出典は以下の通りです。

訪問看護ステーション数・廃業率

一般社団法人全国訪問看護事業協会「令和7年度 訪問看護ステーション数 調査結果」(2025年)——ステーション稼働数18,754ヶ所、新規開設2,487件、廃止886件、休止355件、開設年度中廃止69件

離職率・人材定着

神奈川県「令和5年度 看護職員就業実態調査」——訪問看護師の離職率16.7%、経験3年未満は20%超、5名以下の小規模施設は23.2%

東京都福祉局「訪問看護ステーション経営実態調査」——スタッフ定着に必要な要素:給与66.2%、人材育成支援48.3%、OJT35.7%。黒字経営の事業所ほど研修が充実

管理者研修・マネジメント教育

大阪府訪問看護ステーション協会「管理者研修に関する調査」——約半数の管理者が管理者研修を未受講

経営指標・収支構造

厚生労働省「令和4年度 介護事業経営概況調査結果」——訪問看護事業の収支差率の平均7.1%(黒字)、赤字事業所は約3割、人件費率の平均78.0%

2026年度診療報酬改定

厚生労働省「令和8年度 診療報酬改定について」——改定率+3.09%(令和8年度+2.41%、令和9年度+3.77%、緊急対応分+0.44%)

厚生労働省「訪問看護ベースアップ評価料の見直し」——評価料Ⅰ:1,050円、評価料Ⅱ:18区分→36区分に拡大

厚生労働省「訪問看護に係る個別改定項目」——訪問看護医療情報連携加算1,000円/月、訪問看護遠隔診療補助料2,650円/日