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訪問看護ステーションを立ち上げるには?開設に必要な手続き・準備を初心者向けに徹底解説

訪問看護ステーションを立ち上げるには?開設に必要な手続き・準備を初心者向けに徹底解説!

訪問看護ステーションを立ち上げたいと思っても、何から手をつけてよいかわからない方は少なくないでしょう。本記事では、訪問看護ステーションの開設までの流れ・必要な書類・手続きについて、初心者向けに詳しく解説します。失敗しやすいポイントについても解説しますので、初めての事業所開設を成功に導くためのヒントになれば幸いです。

訪問看護の位置づけ

訪問看護ステーション開設を成功させるには、訪問看護の位置付けと事業所を取り巻く市場の動向を知ることが大切です。ご存知の方も、ここでサクッとおさらいしておきましょう。

訪問看護ステーションとは?

訪問看護ステーションとは、利用者が住みなれた場所で療養生活を行えるようサポートするサービスを行う事業所です。訪問看護は介護保険制度における居宅サービスの1つとして位置付けられています。サービス内容は、医師の指示のもとに行う治療介助や介護指導のほか、リハビリ指導など多岐に渡ります。サービス担当者は保健師・看護師・准看護師・理学療法士・作業療法士・言語聴覚士です。利用者の在宅療養生活を実現させるべく、健康の維持・回復・生活の質向上に向け、予防から看取りまでを支えます。

平成12年の介護保険法施行に伴い、在宅の要支援者・要介護者に認定された人に対し訪問看護が提供されています。介護保険からの給付が最優先にはなるものの、厚生労働省が定める疾病によっては、医療保険による訪問看護の提供が行われることもあります。

訪問看護ステーションを立ち上げるためには、行政から訪問看護ステーションとしての指定を受けることが必要です。

訪問看護ステーションを取り巻く市場の動向

訪問看護ステーションは高齢化の進行に伴い、右肩上がりに急増しています。2023年4月時点で、事業所の数は15,000ヶ所を超えました。近い将来、団塊の世代が後期高齢者に突入することを考慮すると、利用者の数に比例して訪問看護事業所の数も増えていくことが予想されます。

特に東京や大阪をはじめとした都心部で事業所が急増しており、競争が激しくなっていることがわかります。

新規開設する訪問看護ステーションが増えている一方で、事業所の経営状況は芳しくない状況が続いています。休止・廃止率が高く、平均営業利益も低いのが現状です。

マネジメント経験がない管理者による起業が多く、休止・廃止になる事業所も多いのが現状です。訪問看護業界の課題として、マネジメントを学ぶ機会が少ないこと、組織の人的管理が未熟であることが挙げられます。

訪問看護ステーション立ち上げで失敗しやすい5つのポイント

訪問看護ステーションの開設にあたり、失敗しやすいポイントを知ることは重要です。これらのポイントを把握し対策すれば、スムーズな開業への一歩を踏み出せるでしょう。

開業計画の不備

事業計画や事前の市場調査が不十分だと、経営がうまくいかない可能性があります。他の訪問看護ステーションにないサービスや強みを生み出し、利用者に選ばれる事業所を作り上げる必要があります。適切な地域の選定を行い、先を見通した事業計画を立てましょう。

訪問看護ステーションの損益計算書や収支構造については、以下の記事も参考にしてください。
『訪問看護ステーションの経営に必要な損益計算書の基礎知識』
『訪問看護の収益構造の特徴と損益分岐点の考え方』

人員不足

訪問看護ステーションを運営するためには、規定の看護師の人員要件を満たす必要があります。求人を出してもなかなか応募がなく開業できないことや、開業後に看護師の退職により人員が不足し、休止せざるを得なくなることが考えられます。採用活動を円滑に進めるためには、事業所のMVVや方向性を明確にすること、また他の事業所にない福利厚生・教育制度を整え、差別化を図るとよいでしょう。業務の効率化を図り、スタッフが疲弊しない仕組みを整えることも重要です。

競合他社が多い

訪問看護ステーションを立ち上げようとしている地域には、すでに開業している事業所があります。特に都市部ではステーション数が多すぎるエリアもあるでしょう。その場合、他の事業所と強く競合することが考えられます。近年競争環境も激化しているため、自身の訪問看護ステーションの専門性や独自性を利用者にアピールする必要があります。

報酬改定による収支の変化

訪問看護ステーションの収入の多くを占めるのは、介護報酬と診療報酬です。介護報酬は3年ごと、診療報酬は2年ごとに体系や単位数が見直されるため、改定の内容によっては経営状況が大きく変化する場合があります。そのため、報酬の改定について情報収集を行い、看護医療業界の動向を見据えた事業計画を練ることが重要です。

資金不足

綿密な事業計画を立てたとしても、計画通りに運営できないこともあるでしょう。その場合、開業資金として準備した運転資金が不足することも考えられます。資金調達に不備がないか確認し、余裕を持って資金を確保しておくことが大切です。

訪問看護ステーションの開設に必要な基準とは?

訪問看護ステーションの開設に必要な基準として、人員要件・設備要件・運営基準があります。これらは介護保険法に基づき、厚生労働省の「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準」に定められています。3つの要件を満たすことは訪問看護ステーションの開設に必須となるため、おさらいしておきましょう。

訪問看護ステーションの人員要件

訪問看護ステーションの人員要件として、保健師・看護師・准看護師の人数が常勤換算で2.5人以上である必要があります。そのうち1人は常勤でなければなりません。また管理者は常勤の保健師または看護師であることが条件です。

詳細は以下の記事にて解説しています。
『訪問看護ステーションの開設基準・違反事例① ~人員に関する基準編~』

訪問看護ステーションの設備要件

訪問看護ステーションの設備要件として、事業の運営を行うために必要な広さの事務室・訪問看護の提供に必要な設備と備品を備えていることが必要です。
事務室には、利用申し込みの受付や相談等に対応できるだけのスペースを確保しましょう。利用者が落ち着いて相談できる、プライバシーに配慮した空間作りが重要です。
設備には、感染対策として独立洗面所を用意し、手指の消毒がしっかりと行える衛生的な環境を整える必要があります。また、消防法に関連する防火対策として消火器の設置やスプリンクラーの位置を確認することも重要です。

詳細は以下の記事にて解説しています。
『訪問看護ステーションの開設基準・違反事例② ~設備に関する基準編~』

訪問看護ステーションの運営基準

人員と設備の他にも、厚生労働省が定める『指定居宅サービス等及び指定介護予防サービス等に関する基準』の第63条から第73条(準用を除く)を満たす必要があります。

  • 内容及び手続きの説明及び同意
  • 提供拒否の禁止
  • 提供困難時の対応
  • 受給資格等の確認
  • 心身の状況等の把握
  • 保健医療サービス提供者等との連携
  • 身分を証する書類の携行
  • 利用料
  • 明細書の交付
  • 指定訪問看護の取扱方針
  • 主治医との関係
  • 訪問看護計画書及び訪問看護報告書の作成
  • 利用者に関する市町村への通知
  • 緊急時等の対応
  • 管理者の責務
  • 運営規程
  • 勤務体制の確保等
  • 業務継続計画の策定等
  • 衛生管理等
  • 掲示
  • 秘密保持等
  • 広告
  • 苦情処理
  • 事故発生時の対応
  • 会計の区分
  • 記録の整備
  • 事業報告

各項目の詳細は以下の記事にて解説しています。
『訪問看護ステーションの開設基準と違反事例③ ~運営に関する基準編~』

訪問看護ステーション開設までの流れ

続いて、訪問看護ステーション開設までの流れを詳しく解説します。適切な手順を把握し、スムーズな事業所立ち上げを目指しましょう。

事業計画の作成

まず、訪問看護ステーションを立ち上げる目的や方針を明確にし、理念に基づいた事業計画を作成します。開業する地域に既設されている訪問看護ステーションの数・病院や診療所等の医療機関の数・提供すべき訪問看護サービスの内容・連携する医療機関等を考慮し、3〜5年の中長期的な事業計画を作成することがポイントです。
提供する訪問看護サービスの対象者像・内容・方法を十分に検討し、周辺の事業所にない強みを模索しましょう。また、資金の調達方法や収支計画、人員の配置などを具体的に決めることが重要です。

法人を設立する

法務局で「商業・法人登記申請」を行い、法人を設立します。訪問看護事業は個人での開設ができず、所轄官庁から介護保険・医療保険の指定を受ける必要があります。指定を受けるためには、株式会社や合同会社、医療法人・社会福祉法人・NPO法人などの法人格が必要です。

市町村・都道府県に事前協議を行う

続いて、自治体の介護保険や老人医療の担当者と面談し、事業所を開設する意向について説明し相談します。開設場所・目的・経営理念・運営方針についても詳細に説明しましょう。
東京都で事業所を開設する場合、『東京都保健局』が窓口になります、「都道府県 訪問看護 新規指定」と検索すると、各都道府県の新規指定窓口が上位に検索表示されますので、確認してみましょう。

参考:東京都福祉局_訪問看護・介護予防訪問看護(新規指定を受けたい方へ)

開業資金を確保する

訪問看護の立ち上げに必要な初期費用は計画によって差が出ますが、計画通りにいかないことも踏まえ1,500〜2,000万円程は準備しておいた方が安心です。内訳としては以下のものが挙げられます。

  • 法人設立費用
  • 不動産(事務所)賃料・敷金・礼金
  • 事務所の設備・備品・消耗品
  • 車両代・駐車場代
  • 人件費
  • 人材紹介料
  • 広告宣伝料(チラシ作成・HP作成など)
  • 最初の介護・医療保険給付金が入るまでの運転資金
  • 単月で黒字を継続できるようになるまでの運転資金

上述したように、報酬改定により収入が減ることも考えられるため、余裕を持って開業資金を確保しておくことが重要です。必要に応じて融資や助成金の活用も視野に入れておくとよいでしょう。

事務所を契約する

訪問看護の事務を行ったりスタッフが待機したりする場所として、事務所を契約します。介護保険法で定められた基準には、事務室専用の区画があり、併設事業所等の機能・会計とは分離していることなどの要件があります。開業予定地域の自治体によっては、独自基準として事務室の最低面積が定められていることもあるため、事前に確認しましょう。

従業員を採用する

訪問看護ステーションで働くスタッフを採用します。介護保険法の人員に関する基準に定められた、常勤換算で2.5人以上の保健師・看護師・准看護師の配置にする必要があります。そのため、自身が看護師として働く場合、事業所の指定申請までに少なくとも2人以上の採用が必要です。

社労士・税理士を探す

訪問看護ステーションを運営するためには、給与計算や会計について詳しい社労士・税理士を探すことも必要です。事業を応援してくれる、信頼できる専門家を探しましょう。

事務所の設備・物品を整える

介護保険法で定められた設備基準に基づき、設備・物品を調達します。一般的に必要な設備・物品は以下のものが挙げられます。

  • 応接セット
  • 事務机・椅子
  • パソコン・タブレット
  • プリンター・コピー機
  • 電話・FAX設備
  • 鍵付きの書庫
  • ロッカー
  • 文具等の事務用品
  • 感染対策用品
  • 車両

都道府県への指定申請を行う

訪問看護ステーションの開業にあたり、都道府県に指定申請を行います。通常は3ヶ月程度の期間がかかりますが、指定権者(自治体)によっては指定申請前の協議が必要なこともあります。書類の様式も指定権者によって異なる場合がある点に注意が必要です。介護保険法の指定を受けると、健康保険法による指定も受けられます。開設後は6年ごとに更新申請をする必要があります。

加算体制・業務管理体制の届け出をする

訪問看護ステーション立ち上げにあたり、都道府県等に対し、介護報酬で定める加算体制の届け出をする必要があります。健康保険法における加算体制の届け出は、地方厚生局長に対して行います。
また法令遵守や不正行為防止、利用者の保護と適切な介護事業運営のため、業務管理体制の届け出が必要です。事業所数や地域に応じて、国・都道府県に対して届け出を行います。

指定を受けて開業する

指定申請が問題なく通ると、指定通知書が届きます。通知が届くまでに1〜2ヶ月ほどかかることがあります。通知を受け取ったら、いよいよ事業のスタートです。

訪問看護ステーションの実務運営に必要な準備・書類

訪問看護ステーションの運営に必要なマニュアル、サービス提供等に関する記録、事業の維持に必要な書類を準備する必要があります

利用者との契約関連書類

利用者と契約を結ぶ上で、以下の書類が必要です。

  • 契約書
  • 重要事項説明書
  • 個人情報使用同意書
  • 利用料金表

特に、法令で以下の8つの重要事項に関する規定を定めておく必要がありますので、漏れがないか必ず確認しましょう。

  • 事業の目的・運営の方針
  • 従業員の職種・人数・職務の内容
  • 営業日・営業時間
  • 指定訪問看護の内容・利用料・その他の費用
  • サービスを提供する地域
  • 緊急時の対応方法
  • 虐待防止のための措置ついて
  • その他運営に関する重要事項

サービス提供記録等

訪問看護事業では、以下のような記録作成が義務付けられています。状況に応じて追加の可能性もあります。必要な記録の抜け漏れがないよう、電子カルテのメーカーに問い合わせ、導入しましょう。記録の不足は行政からの指導対象になり、保険請求金額の返金などつながることがありますので注意しましょう。

  • 訪問看護記録書
  • 訪問看護計画書
  • 訪問看護報告書
  • 市町村等に対する情報提供

請求関連書類

訪問看護サービスを提供したら、実績をまとめ、毎月レセプト請求・利用者への自己負担請求を行うことができます。電子カルテを導入していると、日々の実績や利用者ごとの設定によって請求に必要な書類作成がスムーズに行えます。

各種規定の作成

訪問看護事業所の運営については、人事労務規定やその他事業の運営に必要な規定を作成する必要があります。人事労務に関する規定は、労働基準法との整合性や従業員とのトラブルの回避のためにも非常に重要になりますので、作成は社労士などのプロに相談しましょう。

  • 就業規則
  • 給与規程
  • 退職金規程
  • 旅費規程
  • 育児休業規程
  • 介護休業規程
  • 再雇用規程
  • 人事考課規程
  • 個人情報保護規程
  • 車両管理規程
  • 防災防火管理に関する規程 など

その他、必要に応じて規定を作成しましょう。

運営マニュアル

訪問看護ステーションの運営マニュアルとして、以下のものが挙げられます。立ち上げた直後から全てを作成しておくことは難しいかと思いますが、基本的なルールの統一や緊急時のスムーズな対応に向け、順次整えていきましょう

  • 訪問看護サービス提供のためのマニュアル
  • 教育マニュアル
  • 感染症に関するマニュアル
  • 交通事故に関するマニュアル
  • クレーム対応マニュアル

賠償責任保険への加入

訪問看護サービスの提供に際し、利用者やその家族等に怪我をさせてしまったり、物損事故を起こしてしまった場合に備えた賠償責任保険への加入が義務付けられています。一般的な例として、訪問看護事業共済会などの保険がよく利用されています。

参考:訪問看護事業共済会ホームページ

まとめ

訪問看護ステーションを立ち上げるまでの流れ・必要な書類・手続きについて解説してきました。

事業所を新規に立ち上げるためには、所定の人員・設備・運営基準を満たす必要があります。また既設の訪問看護ステーションをリサーチし、他の事業所との差別化を図りつつ綿密な事業計画を立てることが重要です。初めての開業は不安がつきものですが、皆様が理想の事業所開設に向け、大事な一歩を踏み出されることを願っています。

私たちUPDATEでは、訪問看護ステーションの立ち上げ支援も実施しています。初回無料相談会も実施していますので、お気軽にお問い合わせください。

小瀨文彰プロフィール写真(株式会社UPDATE 代表取締役)
株式会社UPDATE 小瀨 文彰
株式会社UPDATE 代表取締役(看護師・保健師・MBA) ケアプロ訪問看護ステーション東京にて新卒訪問看護師としてキャリアスタート。その後、訪問看護の現場・マネジメント経験の他、薬局や訪問看護運営するスタートアップ企業で40拠点・年商65億規模の経営を行い上場企業へのグループインを実現。現在は医療職マネジメント人財を育成するためマネジメントスクールを運営中。