訪問看護のスタッフ退職、引き止めるべき?給与や条件で引き止めないほうがいい理由
「すみません、辞めようと思っていて」。訪問から戻った夕方、記録を書いている横でそう切り出される。頭に浮かぶのは、来月の訪問スケジュールとオンコールの当番表です。何とか引き止められないか、と考えるのは自然なことだと思います。私自身、引き止めた経験は数えきれません。訪問看護の経営支援を行ってきた株式会社UPDATEの立場から、引き止めた結果どうなったのか、そしていまはどう対応しているのかをお伝えします。
株式会社UPDATE 代表取締役(看護師・保健師・MBA) ケアプロ訪問看護ステーション東京にて新卒訪問看護師としてキャリアスタート。その後、訪問看護の現場・マネジメント経験の他、薬局や訪問看護運営するスタートアップ企業で40拠点・年商65億規模の経営を行い、上場企業へのグループインを実現。現在は医療職マネジメント人財を育成するためマネジメントスクールを運営中。
■経歴
2013年 慶應義塾大学 看護医療学部 卒業
2013年 ケアプロ株式会社入社
2019年 株式会社UPDATE(旧:ヘルスケア共創パートナー株式会社) 創業 代表取締役(現職)
2021年 GOOD AID株式会社 取締役(事業譲渡により退任)
2023年 セルフケア薬局 取締役(吸収合併により退任)
2023年 まちほけ株式会社 代表取締役(事業譲渡により退任)
■得意領域
医療系事業の組織マネジメント
教育体制構築
採用戦略・体制構築
教育体制構築
新卒訪問看護師の育成
管理職の育成
■保有資格・学位
看護師
保健師
経営学修士(MBA)
目次
引き止めたくなるのは、現場が回らなくなるから
人がなかなか定着しない時期を、私も経験しています。そんなときに「辞めようと思っているんですけど」と相談されると、何とか引き止めて事業所を回さなければ、と考えていました。呼び出されるたびに身構える。当時は本当に苦しかったです。
訪問看護は、人がいないと回らない事業です。いまこの人が辞めたら、訪問件数があふれる。利用者さんを「受けられません」と放り出すわけにはいかないので、ほかの事業所にお願いすることになります。利用者さんにも、ケアマネジャーさんや主治医の先生にも迷惑がかかる。しかも、迷惑をかけて終わりではありません。その後、依頼が来なくなるんです。人の出入りが稼働や売上にどう響くかを含めた経営全体の見取り図は、訪問看護の経営完全ガイドにまとめています。
オンコールも同じです。オンコールを多く持っていた人が急に抜けると、残った人で割り振るしかありません。規模が小さいうちは、私が自分で粘ってしのいでいました。事業所が大きくなると、そうもいきません。負担はほかのスタッフに分散し、その人たちまで疲れていく。だから「何とか残ってもらえないか」「せめてこの日まで延ばしてもらえないか」とお願いしていました。
もうひとつは、組織の中心にいる人が辞めるときです。周りから頼られていた人が抜けると、良くも悪くも組織のカラーが変わります。いい方向に変わればいいのですが、中核の人が抜けたあとは、どちらかというと雰囲気が沈みがちです。それが怖くて、引き止めにかかっていました。
引き止めたくなる理由は、どれも筋が通っています。利用者さんのため、ほかのスタッフのため。問題は、その手段のほうでした。
訪問看護の経営支援
経営の話を、ひとりで抱えていませんか
収支も採用も育成も、判断するのは結局いつも自分ひとり。相談できる相手がいない。UPDATEにいただくご相談で、いちばん多いのがこの状態です。月1〜2回のマネジメント会議を事業所に根づかせ、ひとりで抱える経営から、チームで動かす経営へ変えていきます。
給与を上げて残ってもらった、その後
いまはやりませんが、当時は給与や条件を変えてまで残ってもらったことがあります。前職では訪問看護と薬局の両方を見ていて、薬局のエリアマネージャーからこんな相談がよく来ていました。「この人に辞められたら本当に困るので、給与や休みの条件を少し飲んでもらえませんか。この店舗で働きたい、ほかには行きたくない、あの人とは働きたくない、と言っているんです」。現場が回らないならしょうがない、と受けていました。
今思えば、やっても意味がなかったと思っています。短期間をしのぐことはできます。でも、しのげたことよりも、あとから来る悪影響のほうがずっと大きかった。
給与を上げた話は、どこかから必ず漏れます。スタッフ同士は話をしますから。すると「辞めると言った人は給与が上がるのか」「上げられるなら、なんで辞めると言ったときだけなの」と受け取られる。辞めると言わないと評価されない職場に見えてしまうんです。実際に、すごく頑張ってくれていた人がそれにショックを受けて辞めてしまったこともありました。給与を上げて引き止めることの危うさは、管理者・経営者がやってはいけない3つの対応でも書いています。
「辞めます」が通る組織で起きること
条件をよくしてもらって残る。また嫌なことがあれば「辞めます」と言う。これが延々と繰り返されたこともありました。対応しているマネージャーのほうが疲れきって、「もう働きたくない」と言い出す。周りのスタッフも引っ張られて、雰囲気がどんどん悪くなっていく。
「調整がつけば本当は続けたい」という相談なら、まだ話し合う余地があります。厄介なのは、「こんな会社辞めてやる」という気持ちで言っている場合です。少し条件がよくなって残ったとしても、不満は消えません。ほかのスタッフに不満をこぼし続けたり、仕事ぶりがだんだん雑になったりします。
残念ながら、どの組織にも方向性が合っているスタッフと、合っていないスタッフがいます。本来は、合っている人や活躍してくれている人を評価しなければいけない。ところが引き止めを続けると、不満を口にした人ほど条件がよくなる。合っていない人のほうが居心地がよく、ものを言いやすい組織になってしまうんです。私はこのジレンマを抱えながら、それでも「現場が回らないとみんなに迷惑がかかるから」と条件を調整していました。
いまは引き止めない。そのかわり、きちんと引き継いでもらう
いまの私は、基本的に引き止めをしていません。かといって、「そうなんですね、どうぞ」で終わらせるわけでもありません。
「来週から来ません」と言われたら、それは困ると伝えます。私たちは医療系のサービスなので、「行けなくなりました」では済まないからです。法律のうえでは申し出から短い期間で辞めることもできるので、そこを持ち出されたら立場上、駄目とは言えません。それでも、担当している利用者さんをほかのスタッフにきちんと引き継いでから卒業してほしい。できる範囲で、時期の調整もお願いしたい。やることをやってから次のステップに進んでほしい。この話は必ずします。
一方で、「ここが不満だから、変えてくれないなら辞めます」と言われたときに、それを飲んで引き止めることはしないと決めています。
私たちは、利用者さんにケアを届けてなんぼの仕事です。それをチームで支えている。だから辞めるにしても、きれいに辞めていってほしいと考えています。辞める本人にとっても、そのほうがいいはずです。最近は退職代行を使ったり、権利を振りかざして急に辞めたりすることもできます。でも、訪問看護は狭い業界です。きちんと引き継いで次に行く。私も含めた周りのメンバーが、その人を気持ちよく送り出す。個人的には、そういう辞め方と送り出し方を大事にしたいと思っています。申し出を受けた面談での振る舞い方は、退職面談で管理者がやりがちなNG行動にまとめました。
SNSを見て揺れているなら、キャリアの話をする
最近はSNSなどで、キラキラした情報がたくさん流れてきますよね。特に若い方は、私も昔そうだったかもしれませんが、そういうものに憧れて「あっちもいいんじゃないか」と迷うことがあります。
そういう相談を受けたら、話を聞きます。引き止めるためではありません。老婆心ながら、それは本当にあなたのキャリアややりたいことと合っているのか、を一緒に考えます。イメージのきれいな面だけを見て転職しようとしているなら、次の職場で合わなかったときにもったいないからです。辞めるか辞めないかは本人の自由です。会社の代表としてではなく、個人として「こういう面もあると思うよ」「逆に、ここはあなたに合っていると思うよ」と話します。
その結果、「やっぱり残って頑張りたい」と言ってくれる人もいれば、一度辞めていく人もいます。転職先が思い描いていたのと全然違って、戻ってきてくれたケースも過去にありました。
小さな事業所ほど、ひとりで判断しないでほしい
理屈としてはそうだよな、と思いながら読んでいただけたかもしれません。ただ、スタッフが数人しかいない事業所で、そのうちの1人から「辞めたい」と言われたら、冷静ではいられないと思います。言われたことを全部飲み込んででも、条件面で何とかしてでも、とにかく乗り越えなければ。そういう気持ちになります。
引き止めが絶対にいけないとは思っていません。利用者さんのために、ある程度は必要な場面もあります。ただ、引き止めすぎると、その対応に不満を持ったほかのスタッフ、本来は組織に合っていた人が辞めてしまうことがある。ここは本当に注意してほしいところです。
経験があれば、この事実を周りのスタッフが知ったらどう思うか、なんとなくイメージが湧きます。でも、目の前の人を辞めさせないことに意識が向くと、判断を誤ってしまう。組織のなかに相談できる人がいるのが理想ですが、退職の話はなかなか相談しづらいものです。
UPDATEでも無料の個別相談を行っていて、先日も、スタッフの退職のことで相談できる相手がいなくて、という方がいらっしゃいました。サービスを使うかどうかは関係ありません。退職の相談を受けて困っているときは、一度話しに来てください。
この内容は動画でもお話ししています。【動画】退職の引き止めはリスク?訪問看護の経営者が語る「辞めます」への向き合い方から視聴できます。
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まず30分、いまの状況を聞かせてください
UPDATEのマネジメント・コーチは、月1〜2回の定期ミーティングと随時のチャット相談で、収支から採用・育成まで一緒に整理していきます。月額4.8万円(税別)から、契約は3ヶ月単位。無料相談では売り込みはしません。
