訪問看護の管理者が陥りがちな8つの課題【訪問看護マネジメントナレッジ01】
訪問看護のマネジメントでは、よく陥りがちな失敗パターンが存在します。中には、組織のために実施していることや考え方が実は組織の負のサイクルに陥るきっかけとなることもあります。
そのため、本記事では新任管理職や経営者など次の管理者育成を目指している方に向けて、訪問看護の管理者が陥りがちな8つの課題と課題克服に向けた打ち手をご紹介します。
目次
訪問看護のマネジメントが上手く回らない背景
医療業界は全般的に経営やマネジメントについて学び実践する場が少ない、身近にロールモデルとなる存在がいない、訪問看護などの小規模な組織では研修体制が十分に揃っていないなどの環境上の課題があります。最近は訪問看護事業所が年々増えていますが、経営やマネジメントについてしっかりと学んだことがないまま起業されるという方も少なくないでしょう。
そのため、多くの方も看護管理者や経営者は事前準備がないまま実践に臨まざるを得ない状況にあります。もちろん、誰しもが実践の中から学び成長していくものではありますが、人(スタッフ)が命と言っても過言ではない訪問看護という事業の特性から、管理者や経営者がマネジメント能力を身に着ける前に組織崩壊を起こしてしまい創業後すぐに事業所を閉鎖するケースも存在します。ちなみに、令和4年度の年間の休止・廃止率は約5.5%にものぼります。
このように、医療業界がそもそもマネジメントを学びにくい環境であることに加え、訪問看護は特に人材を中心としたマネジメントが非常に重要なサービスであることが相まって、上手く経営や運営を行うことができない事業所が多く発生しています。
訪問看護の管理者が陥りがちな8つの課題
そのようなマネジメント経験の少ない訪問看護管理者や経営者には、良く陥りがちな8つの課題パターンが存在します。あらかじめ8つの課題パターンを理解しておくことで自らのマネジメントにおける失敗を予防することができるので、これから1つずつ8つの課題パターンをご紹介していきます。
医療職マネジメントの負のサイクルに陥る可能性もある要素なので、ぜひ1つずつ振り返って改善を目指していただければ嬉しいです。
より経営に近い立場の方は「訪問看護ステーションの管理者がよく抱える悩み事と身に着けるべき6つのスキル」もご覧ください。
共通目的の不在
まず1つめの課題パターンは『共通目的の不在』です。組織における共通目的が浸透していないことにより、まとまりのない組織を生みます。共通目的とは、組織の方向性や目指すべき成果のことを指します。よくあるケースは、「私たちの事業所では理念の共有はしっかりしている」と自負している方でも、理念実現のための具体的なゴールや目標設定ができていないため抽象度の高いレベルでしか浸透できていないパターンです。このようなパターンも「方向性さえあっていれば何でもOK」という状態になってしまい組織としての統制が取れなくなってしまいます。そのため、理念などの大指針と、1年・数か月ごとの短期の具体的ゴールとセットで浸透することが大事になります。また、組織が大きくなるにつれ浸透が難しくなるため、そのような組織体制や手法で浸透させるかもしっかりと考える必要があります。
ブレブレ判断
2つ目の課題パターンは『ブレブレ判断』です。名前の通り、判断や意思決定に軸がなく場当たり的なものになってしまっている状態です。判断がブレることで成果が出ないという課題もありますが、根深い問題としては管理者の判断がブレ続けることによりメンバーの信頼がどんどんなくなっていく症状が発生します。軸がない判断の連続でメンバーもどの判断を信じていいのかが分からなくなったり、管理者の好みなどで意思決定をしているのではないかと懐疑的に見られてしまうこともあります。ブレブレ判断の原因としては、意思決定の訓練ができていないことや目先の問題に振り回されて中長期を見越した判断が出来ていないことなどが挙げられます。
なけなしの自信
3つ目の課題パターンは『なけなしの自信』です。こちらも名前の通り管理者自身が自らのマネジメントや意思決定に自信が持てない状況を指します。管理者の自信のない言動に対し、メンバーが過度に不安になってしまうことがあります。特に、意思決定や施策にはメリットとデメリットが必ず生じますが、管理者の自信がない様子からメンバーや管理者自身がデメリットばかりに注目してしまう傾向があります。また、その他の弊害としては、自信が持てないが故に、主張が大きい方や反発が大きい方の意見を取り入れがちな傾向もあります。主張や反発の大きい方の意見が組織の目指すべき方向にたまたま合致していればいいですが、違っている場合は組織の成果が出ないばかりでなく、主張が少なく組織のために立ち回っている人財が離れていき組織崩壊につながるケースも生じます。
やさしさ主義
4つ目の課題パターンは『やさしさ主義』です。医療職の方は、全体的に優しい方が多くフィードバックをすることに躊躇いが生じたり、変に回りくどく伝える人が多い傾向があります。また、近年「心的安全性」という言葉をよく勉強もしないまま持ち込み「何でも優しくすることが大事」という誤った認識をしている組織もあり、時にメンバーもそのような聞こえがいい組織が「イイ組織である」と勘違いしがちです。例えば、ルールを守らない人がいた時にしっかりとフィードバックをしない、改善すべきことがあるのに「その人にもイイ所や強みもある」と話を論点をずらしたり抽象化することでしっかりと伝えない、などが典型的にみられるパターンです。もちろん、その人の人格や人間性を否定することは良くないですが、組織のあり方やルール、仕事をする上での改善などを伝えることは組織の統制を取る上で非常に重要になります。『やさしさ主義』でこのような統制を取らないと「何でもOK」な組織になってしまい、組織のあり方にマッチし貢献してくれていた人から離脱していくリスクが生じてしまいます。
言葉足らず
5つ目の課題パターンは『言葉足らず』です。理念やミッションを伝えるにせよ、各施策を行う背景を伝えるにせよ、言葉足らずでメンバーにしっかりと伝わっていないが故に、組織としての一体感や各アクションの実行力に悪い影響を及ぼします。大きく2つのパターンがあり、単純にコミュニケーションの機会が少ないパターンと、言語化に慣れずしっかりと伝わらないパターンです。前者は忙しさや特にメンバーと向き合うことを避けるなどで圧倒的にコミュニケーション不足、後者はメンバーが理解できる言葉で語るスキル不足が原因となっています。管理者として1つ1つ適切な判断をしていたり、様々な配慮の中で事業所の運営しているもののメンバーにしっかりと伝わっていないというもったいないケースもあります。
数値拒絶
6つ目の課題パターンは『数値拒絶』です。数値管理への苦手意識などからしっかりとした数値管理をすることを避けてしまう傾向があり、ともすると事業所の安定した運営に支障が出る場合もあります。定量的に状況を判断できないことで意思決定のタイミングが遅れ、稼働率が高まりすぎて業務負荷が大きくなりすぎたり、逆に一気に赤字になってしまうなどの状況に陥るリスクがあります。また管理者だけでなく、メンバーが数値への拒絶意識があると、数値に関して話すこと自体が悪という風潮を創ることもあります。典型的な例では、全くそんな文脈ではないのに売上について話すと、「患者を商品みたいに考えるのはよくない」などの意見が出るケースです。医療やインフラ事業は数値を語っていけないような考えを持つ方もいますが、医療やインフラ事業ほどしっかりと事業を継続し続けるために数値管理が大切なので、メンバーの意識を変えていくことも重要になります。
誤った人事
7つ目の課題パターンは『誤った人事』です。採用時の見極め、役職者選定の見極め、人事制度のミスマッチなどが起因しており、組織崩壊を起こすリスクが非常に高い傾向があります。例えば、一見看護に対する強い想いを持っていても想いが強すぎて制度やルールを守れなかったり周囲に自分の価値観を押し付けてしまい組織が崩れることもありますし、仕事に積極的だった人を役職者にした途端に他のメンバーにマウントを取り始め離職者が絶えなくなるというケースもあります。特に怖いのは組織にマッチしない側面を経営者やより上位の職種の前では出さない(意図的はさておき)ことが多く、退職者が続くことをおかしく思った経営者がよくよく話を聞いてその状況に気が付くということも少なくありません。
独りよがりリーダー
8つ目の課題パターンは『独りよがりリーダー』です。これは初めて役職者や経営者になった方にありがちですが、役職や権限に酔ってしまうなどによりリーダーとして周りから認められず組織を率いていない状況のことを指します。いくつかパターンがありますが、メンバーの理解や気持ちを置き去りにしてしまうケース、自分が常に正しいと勘違いしあらゆることでマウントを取ってしまうケース、役職者であることいいことにルールを守らないなど不適切な言動を取り改善しないケース、現場やメンバーを軽視してしまうケースなどがあります。組織の器はトップの器で決まるとも言われますが、このようなリーダーの場合より優秀な人財から愛想を尽かして離脱していくリスクがあります。
8つの課題パターンの克服方法
訪問看護の管理者が陥りがちな8つの課題をご紹介しましたが、中には「自分も当てはまる」とヒヤッとされた方もいらっしゃるのではないでしょうか。これらの8つの課題パターンは、当てはまるか否かというよりは全員がそのリスクを持っていてそれぞれに該当する程度が違うと考えるのが良いでしょう。
8つの課題パターンの克服の第一歩では、自らのマネジメントについて各項目0〜10までの点数をつけて自分のマネジメントレベルの現在地を知ることが重要です。何か明確に点数の基準があるわけではないですが、自分の中でどの傾向が強いかを把握することで振り返りにつなげることができます。もし可能であれば、信頼できる上司などに点数をつけてもらうことも、客観的な評価として非常に有効です。人は思っている以上に自分のことを客観視できていませんし、何より他者もあってのマネジメントなので、積極的にフィードバックをもらうことをお勧めします。一方で、他者評価が必ずしも正解というわけでもないので、他者の意見も参考にしつつ、謙虚かつ誠実にしっかりと自分自身でマネジメントと向き合うことが重要です。
また、8つの課題パターンはスキルやマネジメントに関する考え方を身に着けることで改善するものも多くあります。そのため、臨床に関するスキルだけでなく、マネジメントに関するスキルを学ぶために研修を受けたりプロのマネジメントコーチをつけることもお勧めです。
まとめ:定期的な振り返りで改善度を測ろう
本記事では、訪問看護の管理者・経営者が陥りがちな8つの課題とその克服方法をご紹介しました。ぜひ、まずは自己診断を行っていただき自らのマネジメントを客観視してみましょう。また定期的に振返ることで、自らのマネジメントの変化(もしくは変化していないこと)に気が付けるのでおすすめです。かくいう私も、ほぼ全ての項目でかなり高いリスクを持ちたくさん失敗してきましたが、1つずつ振返っていくことで以前より改善している実感がありますので、ぜひ自らの成長度を測るためにも実施してみてください。
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