訪問看護の理念が浸透しない3つの原因|現場で使われる理念の作り方と伝え方
訪問看護ステーションの理念について経営者や管理者の方と話していると、同じ言葉を何度も聞きます。「作ったきりになっている」「ホームページには書いてあるけれど、それ以外で口にしたことがない」。壁に飾ってあるのに、スタッフに聞くと「入職してから一度も話し合ったことがない」と返ってくる。訪問看護の経営支援を行ってきた株式会社UPDATEの立場から、理念が浸透しない原因と、実際に使われる理念にしていく道筋をお伝えします。
株式会社UPDATE 代表取締役(看護師・保健師・MBA) ケアプロ訪問看護ステーション東京にて新卒訪問看護師としてキャリアスタート。その後、訪問看護の現場・マネジメント経験の他、薬局や訪問看護運営するスタートアップ企業で40拠点・年商65億規模の経営を行い、上場企業へのグループインを実現。現在は医療職マネジメント人財を育成するためマネジメントスクールを運営中。
■経歴
2013年 慶應義塾大学 看護医療学部 卒業
2013年 ケアプロ株式会社入社
2019年 株式会社UPDATE(旧:ヘルスケア共創パートナー株式会社) 創業 代表取締役(現職)
2021年 GOOD AID株式会社 取締役(事業譲渡により退任)
2023年 セルフケア薬局 取締役(吸収合併により退任)
2023年 まちほけ株式会社 代表取締役(事業譲渡により退任)
■得意領域
医療系事業の組織マネジメント
教育体制構築
採用戦略・体制構築
教育体制構築
新卒訪問看護師の育成
管理職の育成
■保有資格・学位
看護師
保健師
経営学修士(MBA)
目次
「お飾りの理念」になるのは、よくあることです
立ち上げのときは、誰もが思いを持っています。こういうステーションにしたいという像があったから、ミッション・ビジョン・バリューを言葉にしたはずです。ところが開設後の激務のなかで、その言葉を使う場面が消えていく。マネジメントコーチのお試し相談でも、話をほどいていくと「確かに自分はこういう思いで立ち上げたんだった。完全に忘れていました」とおっしゃる方が本当に多いんです。お飾りになっていると感じること自体は、珍しくありません。
訪問看護の管理者研修
チームのために動いているのに、組織が悪化していく
臨床を学ぶ場は数多くあるのに、人材育成やチームの動かし方を学ぶ場はほとんどありません。手探りのまま管理者をしている、という方が大半だと感じています。UPDATEの組織マネジメント基礎研修は、訪問看護に特化した全12回のオンライン講座です。管理者の役割からチーム運営、採用、経営指標までを順に扱います。
理念が語られない組織は、平時は回るのに脆い
日々の業務を回すだけなら、理念を知らなくても回ります。だからこそ後回しになる。ただ、訪問看護の仕事は、精神科特化や小児特化のような特徴がなければ、どこへ行っても大きくは変わりません。点滴もアセスメントも似ていて、業務が均一化しやすい。そのなかで困難なケースに直面したり、スタッフ同士で価値観のずれを感じたりしたとき、「この事業所は何のためにあって、なぜ自分はここにいるのか」を自分の言葉にできていないと、人は折れます。隣の芝は青く見えますから、給与だけを理由に転職していく。
チームとしても、一本の軸がないと「この利用者さんは見たいけれど、大変な方は見たくない」という形に流れます。判断基準が一人ひとりの中にできないので、何かあるたびに管理者へ確認しないと動けない組織にもなる。業務は回るけれど、見ている方向はばらばらです。
理念が現場に浸透しない3つの原因
1. 作った過程にいない人には、言葉しか届かない
理念を掲げるのは、たいてい経営者や管理者です。強い思い入れがあり、立派なボードを作って掲げる。抜け落ちがちなのは、その言葉を現場に伝わる形へ翻訳する工程のほうです。ボードをぽんと壁に貼る、朝礼で必ず唱和する。行動そのものは悪くありません。ただ、なぜ毎回確認しているのかという背景がないと、やらされ感だけが残る。経営者は大事さが分かっているから続けるのに、嫌々唱和するメンバーを見て逆にげんなりしてしまう。
2. 抽象的な言葉のまま置かれている
理念には「こういう時はこうします」とは書いてありません。マニュアルではないので、あえて抽象的にまとめます。作った人の頭には「これを全部含めるとこの言葉になる」という背景がある。けれど言葉だけを見た人に、その背景は見えません。素敵だなで止まって、「うちの理念はこうだけど、今は目の前が忙しいよね」と分岐していきます。
3. 掲げた言葉と、日々の言動がずれている
経営者自身も必死です。目先の利益が出ないとやばい局面はありますし、数字を追うことは欠かせません。ただ、常に「利益、利益」「件数、件数」と言い続けていると、メンバーからは言っていることとやっていることが違うように見えます。綺麗なことを言っているけれど実態は違う、と逆の意味で受け取られてしまう。
浸透している組織では何が変わるのか
まずスタッフが折れにくくなります。辛いことや理不尽に感じることが出てきたときに、なぜこのステーションで働いているのかという軸があると持ちこたえられる。訪問看護は多様な病院や診療科を経てきた人が集まる職場ですが、入職後に同じ軸で固まっていれば、それぞれの強みを活かしてこの方向で頑張ろうとまとまれます。日々の判断で理念が使われていれば、管理者がいちいち指示しなくても、同じ軸で考えられるメンバーが育ちます。
そして良くも悪くも色が出る。私はよく「小瀨さんのところは宗教だ」と言われます。実家がお寺なので間違ってもいないのですが、色が出れば好む人と苦手な人に分かれる。合わない人はエントリーの前に自分でスクリーニングしてくれるので、入職後のミスマッチが減ります。
浸透する理念には、必ず解説がついている
浸透しにくい理念の典型は、どこのステーションでも言えることだけで組み立てられているものです。「地域で選ばれるステーションになる」。良い言葉ですが、どこも目指しているはずのことなので、私たちは何を大事にするんだっけ、が見えてこない。「そうだよね」で終わってしまう。
他と違う理念を作れという話ではありません。似た言葉を使うなら、解釈できるようにストーリーを用意しておく。理念は一、二行で端的にまとめるものですから、それを詳しく説明した解説文を一緒に作っておくことです。
もうひとつは、現場の人が使う言葉にすること。経営者は地域や社会という大きな単位で描きますが、現場が守ろうとしているのは目の前の利用者さんのその日一日だったりする。ビジネス的にかっこいい理念でも、医療職に届く言葉でなければ伝わりません。作るときは意見の寄せ集めにせずトップが決めていい。ただし最終決定の前に、これで伝わるかは確かめます。
解説文の実例——私が訪問看護で大事にしていること
医療には、医療としてこうあったらいいという形を押し付けてしまうところがあります。でもそれは、生活者からするとノイズでしかないことがある。その人の生活ではないからです。私が訪問看護師として大事にしたいのは、障害や病気があっても、希望も含めて、その人がその人のありのままの姿で暮らすことです。
だから訪問するときも、その家の雰囲気でコミュニケーションのスタイルを変えます。体育会系のおじいちゃんのお宅なら「こんちはー」と言いながら入っていく。上品なご家庭なら、にこやかに落ち着いた挨拶をする。私たちが入っても生活の一場面がノイズにならないよう、溶け込ませたいんです。
ここまで語ったうえで、「だから私たちが目指すのは、その人のありのままの生活を支える訪問看護ステーションです」と付け加える。「その人らしい暮らし」自体はよくある表現ですが、この語りがつくと現場に落とし込めます。言葉選びよりも、こうしたストーリーを話せるかどうかが効いてきます。
既にある理念は、実践のほうから紐づける
すでに理念がある場合、よくあるのは壁に掲げる、朝礼で読むといった施策です。ただ、メンバーが使えない形のまま「理念を大事にしてください」と言うと逆効果になります。だるそうに朝読むだけの時間には、ほとんど意味がありません。
一番効くのは、何かの場面で語ることです。発表会のような大がかりなことはいりません。カンファレンスで、メンバーが理念に沿った実践をしていたら、「それって、僕が立ち上げたいと思ったときの思いにも通じるエピソードですね」と伝える。その人へのポジティブフィードバックになりながら、その実践は合っているんですよ、というメッセージを全員に発信することにもなります。
理念を理念として語らない。ここが要だと思っています。理念と一八〇度違うことしかやっていない組織はまずないので、すでにやれていることを理念と紐づけていく。上から下ろすのではなく、実践から理念へという順番です。現場で悩んだときに「私たちの理念としては、こうするのはどうかな」と問いかけてみる。あとは繰り返し言うこと。宗教だといじられるくらいまで言う。
採用面接と評価に理念を組み込む
採用面接は、こちらが質問して相手が答えるだけの場ではありません。面接や説明会で、先ほどのような語りを熱量高めに話してみる。創業者でなくても、今、管理者としてこういうステーションにしていきたい、と語ろうと思えば語れます。そして反応を見る。なかには、しんどそうだなと感じて辞退する人も出ますが、合わない人を採用するよりずっと良いことです。
評価は件数のような数字で語られがちですが、定性的な目標は理念と関連づけたい。理念に関する項目だけを別立てにすると、そこをやるためだけの目標設定になります。方向性と全く違うことをしているなら、厳しくなくていいので、ずれているとは伝える。違うものを違うと言わないと、ちゃんとやっている人が損をする組織になります。
言い出せないまま置くと、最後に折れるのは経営者自身
うちの理念、飾りになっているかもしれない。そう感じたとき、多くの方が同じ場所で止まります。今さら言い始めたら白けるだろうな、面倒なことを言い出したぞと思われるんじゃないか、言ったらみんな辞めてしまうかもしれない。その怖さで動けない。
私自身にも覚えがありますし、ご相談でも同じ話をよく聞きます。ただ、そのまま組織が違う方向へ進んでいくと、最後に経営者や管理者自身のやる気がなくなってしまうんです。苦労して立ち上げて、借金もして頑張っているのに、目の前で起きていることは全然違う。何のために私は頑張っているんだろう、と。私はそれを止めたくて、この仕事をしています。辛くても言わなければいけない場面はあります。
理念から組織を立て直したいとき
理念を言葉にしてはみたものの、現場でどう使えばいいのか分からない。何から話せば白けずに届くのか見当がつかない。そうした状態のまま時間だけが過ぎているなら、一度外から整理する手があります。
マネジメントコーチでは、理念や方向性を現場の言葉に翻訳するところから、月1〜2回の定期ミーティングで一緒に整理していきます。判断軸が揃っていないために管理者へ確認が集中している——そんな状態をほどいたり、次の管理者を育てて「自分がいなくても回る組織」へ移していく支援も行ってきました。理念を語る場面をどこに作るか、面談や評価にどう織り込むか。事業所の状況に合わせて詰めていきます。
まず何から手をつけるべきかを、一緒に整理するところから始められます。無料のマネジメント相談を行っていますので、無料相談を申し込むからお声がけください。
