訪問看護の稼働率を安定させる5つのポイント|経営者・管理者のための数字管理
月末に実績表を眺めて、ため息をつく。シフトは埋まっているのに、訪問は1日2〜3件のまま。売上は人件費とほぼ同じ——。マネジメントの講座やコンサルティングの場で、こうしたご相談を本当によくいただきます。
稼働率は、訪問看護の収支管理では「ここだけ見ておけば最低限OK」と言えるほど重要なKPIだと考えています。この記事では、訪問看護の経営支援を行ってきた株式会社UPDATEの立場から、稼働率を安定させるために押さえておきたい5つのポイントをお伝えします。
株式会社UPDATE 代表取締役(看護師・保健師・MBA) ケアプロ訪問看護ステーション東京にて新卒訪問看護師としてキャリアスタート。その後、訪問看護の現場・マネジメント経験の他、薬局や訪問看護運営するスタートアップ企業で40拠点・年商65億規模の経営を行い、上場企業へのグループインを実現。現在は医療職マネジメント人財を育成するためマネジメントスクールを運営中。
■経歴
2013年 慶應義塾大学 看護医療学部 卒業
2013年 ケアプロ株式会社入社
2019年 株式会社UPDATE(旧:ヘルスケア共創パートナー株式会社) 創業 代表取締役(現職)
2021年 GOOD AID株式会社 取締役(事業譲渡により退任)
2023年 セルフケア薬局 取締役(吸収合併により退任)
2023年 まちほけ株式会社 代表取締役(事業譲渡により退任)
■得意領域
医療系事業の組織マネジメント
教育体制構築
採用戦略・体制構築
教育体制構築
新卒訪問看護師の育成
管理職の育成
■保有資格・学位
看護師
保健師
経営学修士(MBA)
目次
なぜ稼働率が最重要KPIなのか
訪問看護は、人を雇い、その人がサービスを届ける労働集約型の事業です。訪問件数が減ったからといって、来月から人件費を減らすわけにはいきません。毎月固定で同じ額がかかり、その割合は少なくとも6〜7割。立ち上げ直後なら8割を超え、人件費が収益を上回っている事業所もあります。
「稼働率」という言葉に、看護師を馬車馬のように働かせるような印象を持つ方もいるでしょう。私も医療職として、その感覚は分かります。ただ、事業所が潰れてしまえば、ケアは一件も届けられなくなります。稼働率が低い状態は、経営的にまずいだけではありません。看護を届けられるキャパシティがあるのに、届けきれていない状態でもあるのです。
1日2〜3件では、なぜ収支が厳しいのか
仮に1件あたりの単価を9,000円とします。1日2件なら18,000円。月20日勤務で約36万円です。エリアや給与水準にもよりますが、これでは本人の人件費とほぼトントンになります。
「自分の分は稼げているからいい」と思うかもしれません。しかし事業所には、事務員の人件費もあれば、開業時の借入の返済もあります。自分の分だけ取れていればいい、というのは経営としては成り立ちません。1日4〜5件に届いて、ようやくきちんと利益が残る水準です。
では、どうすればその水準を維持できるのか。私が大事だと考えているのは、次の5つです。
- 「1日何件」の目安を共通認識にする
- 数字の意味を伝えず、ノルマだけを課さない
- 「また依頼したい」と思われる日々のケアと連携
- 2〜3ヶ月先の稼働率を見据えて動く
- 管理者をボトルネックにしない
ポイント1:「1日何件」の目安を共通認識にする
常勤週5日なら月100件、週4日なら80件、週1日勤務の方なら月20件。あくまで一例ですが、「8時間勤務なら、これくらいはケアに時間を使いたい」という事業所としての目安を、メンバー全員の共通認識にしておきます。訪問エリアが広く移動時間が長い地域なら、その分を織り込んで構いません。
この基準がないと、「私はちょっと大変なので行けません」が通ってしまいます。言ったもん勝ちです。同じ給与なのに、1日2件で済む人と4件行く人が生まれれば、頑張っている人ほど不満を溜めていきます。個人の裁量で件数が決まる状態は、人件費が収益を常に上回るスタッフを放置することにもなりかねません。
ポイント2:数字の意味を伝えず、ノルマだけを課さない
件数の目安を示すと、「数値ノルマみたいで嫌だ」と感じるスタッフは必ずいます。私自身、最初は数字の管理に慣れませんでした。
ここで「うちは売上が必要だから1日何件行ってください。会社のルールです」という伝え方をしたら、医療職は絶対についてきません。「なら対価をください」という話になり、揉めるだけです。
稼働率の管理は、あくまでやり方の話です。その先には、事業所を継続させること、キャパシティに対してきちんとケアを届けること、利益が出たらさらに人を雇い、より多くの利用者にケアを届けること——そうした本質的な意義があります。管理者やリーダーだけでなく、スタッフにもこの意味が伝わるように日頃から話しておく。これがすべての土台になります。
ポイント3:「また依頼したい」と思われる日々のケアと連携
依頼を増やす一番の近道は、結局、日々のケアの質に尽きます。利用者やご家族からケアマネジャーにクレームが頻繁に上がる事業所に、次の依頼は来ません。
気をつけたいのが、医療者マウントです。本来ケアマネジメントはケアマネジャーの役割なのに、看護師が「こう調整すると決めたので、あとはお願いします」と役割を越えて進めてしまう。こうしたコミュニケーションが続く事業所は、静かに避けられていきます。
細かいテクニックなら山ほどあります。計画書や報告書を持参して顔を見せる。FAXの送付状に「職員が増えたので、いま新規をお受けできます」と一言添える。ただ、初めての依頼はお試しで来ても、二度目からは日々のケアと連携の質でしか生まれません。
ポイント4:2〜3ヶ月先の稼働率を見据えて動く
看護師も人ですから、入職も退職もあります。辞めるからといって、来月すぐ人を入れ替えられるわけではありません。利用者側も同じです。ターミナルの方のお看取りが続けば件数は急に落ちますが、「減ったので依頼をください」と動いても、すぐには埋まらないのが実際のところです。
だからこそ、2〜3ヶ月後に件数が落ちそうなら、いまから周知活動を増やしておく。逆にキャパシティを超えそうなら、断り続けて紹介が止まる前に周知を一旦セーブし、採用は3ヶ月から半年先を見据えて早めに動く。過去の実績ではなく、先の見立てで動けるかどうかが、稼働率の安定を分けます。
ポイント5:管理者をボトルネックにしない
小規模の事業所でよくあるのが、新規依頼の対応から契約、初回のアセスメント、ケアの組み立てまでを管理者しかやっていないケースです。規模が小さいうちは回ります。しかし、やがて管理者が忙しすぎて新規を受けられなくなります。スタッフの稼働率は低いのに、管理者だけがパンクして依頼を断っている——もったいない状態です。
新規の対応から初期の看護計画まで担えて、訪問看護師として一人前。私はそう考えています。全員でなくても構いません。目指せる人がそこまで担える教育体制をつくっておかないと、事業所は管理者の忙しさ以上には成長できないのです。
稼働率管理表で「2〜3ヶ月後」を眺める習慣を
私がおすすめしているのは、稼働率管理表をつくり、過去の実績だけでなく、スタッフの入退職を含めた2〜3ヶ月後のキャパシティと件数の見立てを書き込むことです。複雑な仕組みは要りません。定期的にその表を眺め、2〜3ヶ月後のイメージから逆算して動く。それだけで打ち手のタイミングが大きく変わります。
稼働率が上がらない原因は、事業所ごとに違います。今回挙げた5つは多くの事業所に共通するものですが、どこから手をつけるべきかは、現場ごとの判断が必要です。
数字とひとりで向き合っている経営者・管理者の方へ
稼働率の数字を追いかけるほど、スタッフとの温度差を感じて孤独になる。経営者や管理者から、そんな声もよく聞きます。
株式会社UPDATEのマネジメントコーチでは、壁打ちを通じて、稼働率が上がらない原因をどこから対策すべきかを一緒に整理しています。私たちが実際に使っている稼働率管理のフォーマットをそのままお使いいただくことも多く、経営指標の見える化から始めて、赤字だった事業所が3ヶ月で黒字に転換した例もあります。
無料相談で、まず何から手をつけるべきかを一緒に整理できます。
