訪問看護の適切な人件費率とは?適正に管理する5つのステップも紹介
訪問看護ステーションの経営において、人件費率は最も重要な経営指標です。
しかし、人件費率が高い=給与を下げればいいという短絡的な考え方は離職を加速させ、経営をさらに悪化させてしまいます。
40拠点・250名の訪問看護事業を経営してきた私の経験からも、人件費率を適正に管理することこそが安定経営のポイントだと何度も実感してきました。
ではどうしたら訪問看護の人件費率を目標値に近づけられるのか、知りたいという方は少なくないでしょう。
そこで本記事では、訪問看護の人件費率の適正水準と、目標とするべき人件費78%以下を実現するための具体的なステップを解説します。
株式会社UPDATE 代表取締役(看護師・保健師・MBA) ケアプロ訪問看護ステーション東京にて新卒訪問看護師としてキャリアスタート。その後、訪問看護の現場・マネジメント経験の他、薬局や訪問看護運営するスタートアップ企業で40拠点・年商65億規模の経営を行い、上場企業へのグループインを実現。現在は医療職マネジメント人財を育成するためマネジメントスクールを運営中。
■経歴
2013年 慶應義塾大学 看護医療学部 卒業
2013年 ケアプロ株式会社入社
2019年 株式会社UPDATE(旧:ヘルスケア共創パートナー株式会社) 創業 代表取締役(現職)
2021年 GOOD AID株式会社 取締役(事業譲渡により退任)
2023年 セルフケア薬局 取締役(吸収合併により退任)
2023年 まちほけ株式会社 代表取締役(事業譲渡により退任)
■得意領域
医療系事業の組織マネジメント
教育体制構築
採用戦略・体制構築
教育体制構築
新卒訪問看護師の育成
管理職の育成
■保有資格・学位
看護師
保健師
経営学修士(MBA)
目次
訪問看護における人件費率の適正水準

訪問看護における人件費率とは、売上高に占める人件費の割合のことで、業界平均は70〜80%です。一般的な企業の人件費率が30〜50%であることと比較すると、非常に高い水準です。そのため、訪問看護ステーションの経営では、人件費の管理が収益性を左右する最大の要因となっています。
訪問看護の人件費率はなぜ高いのか
訪問看護の人件費が高くなりやすいのは、労働集約型のビジネスモデルであるためです。
訪問看護は、看護師が利用者の自宅を訪問してサービスを提供する、労働集約型の構造となっています。製造業のように設備投資で生産性を上げることが難しく、売上の源泉はスタッフの訪問活動そのものです。
そのため、人件費が総費用の大部分を占める構造は業態特性であり、他業種と同じ水準を目指す必要はありません。重要なのは、訪問看護の業態に適した適正水準を理解し、その範囲内で適正な人件費率になるようにコントロールすることです。
他業種との比較
| 業種 | 人件費率の目安 |
| 製造業 | 20〜30% |
| 小売業 | 25〜35% |
| IT業 | 40〜50% |
| 飲食業 | 30〜40% |
| 訪問看護 | 70〜80% |
人件費率の段階別経営状態
訪問看護ステーションの人件費率と経営状態の目安を整理すると、以下のようになります。
| 人件費率 | 経営状態 | 対応の方向性 |
| 65%以下 | 高収益だが、給与水準が低い可能性あり | スタッフ還元・投資を検討 |
| 65〜75% | 優良な経営状態 | 現状維持・成長投資が可能 |
| 75〜80% | 安定経営の範囲内 | 効率化の余地を検討 |
| 80〜85% | 注意が必要 | 早期に改善施策を実行 |
| 85%以上 | 継続的な赤字リスク | 早急な終始改善必要 |
78%以下が安定経営の目安であり、85%を超えると事業継続が困難になるリスクが高まります。
人件費率が80%を超える訪問看護の共通パターン

人件費率が80%を超える状態が慢性化しているステーションには、いくつかの共通点があります。
代表的なのが、人材紹介会社への依存・訪問件数の不足・離職コストの慢性化・加算算定の漏れという4つのパターンです。これらの要因を把握することが、人件費率改善の第一歩となります。
パターン①:人材紹介会社への依存
人材紹介会社への依存は、人件費率を押し上げる大きな要因のひとつです。
採用のたびに人材紹介会社を利用すると、年収の20〜35%にあたる紹介手数料が発生します。例えば、年収450万円の看護師であれば90〜157万円です。
この紹介料は会計上は採用費として処理されることが多いですが、実質的には人材獲得のためのコストであり、広義の人件費に含めて考えるべきです。紹介会社に依存したままでは人材を確保するたびに多額のコストが発生し、いくら売上を伸ばしても人件費率の改善は難しくなります。
パターン②:訪問件数の不足
訪問件数の不足は、人件費率の高止まりにつながります。
人件費率は「人件費÷売上」で算出されるため、分母である売上が小さければ、人件費率は自動的に高くなります。訪問看護の売上は訪問件数に依存するため、訪問が少ない状態では、人件費率の改善は容易ではありません。
看護師1人あたりの月間訪問件数が70件以下の場合、そもそも売上が不足しており、人件費率が高止まりしやすい構造になっています。この場合、人件費を削るのではなく、売上を伸ばすというアプローチが正解です。
パターン③:離職コストの慢性化
離職者が多い職場では、人件費率が上昇しやすい傾向にあります。
離職→採用→教育→また離職というサイクルが常態化すると、採用コストが継続的に発生します。特に、年間離職率が20%を超えるステーションでは、常に採用費がかかっている状態です。
また、新人が一人前になるまでの教育期間中は生産性が低く、売上への貢献が限定的となりがちです。
このように離職が慢性化すると、人件費率は長期的に高止まりしてしまいます。
【関連記事】訪問看護の離職原因12選とは?定着率を向上させる3つの戦略を徹底解説!
パターン④:加算算定の漏れ
加算の算定漏れも、人件費率を不必要に押し上げる要因です。
加算を適切に算定できていない場合、同じ訪問件数でも売上に大きな差が生じます。つまり、加算の算定漏れは売上の機会損失につながり、売上不足により人件費が高く見えてしまいます。
例えば、緊急時訪問看護加算や特別管理加算は、対象者がいるにもかかわらず算定していないケースも少なくありません。
対象者の把握や算定状況の定期的な確認を行い、加算の取りこぼしを防ぐ体制づくりが求められます。
訪問看護の人件費率を管理するための5ステップ

人件費率を80%以下に改善するためには、次の5つのステップ
- 現状の見える化
- 生産性の把握
- 訪問件数の最適化
- 採用チャネルの多様化
- 定着施策の実施
で進めることが効果的です。
ステップ1:人件費の見える化
まず、拠点の人件費の内訳を正確に把握します。
- 基本給・手当・賞与の総額
- 社会保険料(法定福利費)
- 採用費(紹介手数料・求人広告費)
- 教育研修費
これらを合計した、広義の人件費を算出して売上と対比させます。月次で確認できるフォーマットを作成し、経営会議で共有する体制を整えましょう。
ステップ2:スタッフごとの生産性把握
次に、スタッフごとの訪問件数・売上を把握します。全体の人件費率だけを見ていると、問題の所在が分かりません。(1件あたり、売上9,000円として計算)
- 看護師Aさん:月間85件、売上76.5万円
- 看護師Bさん:月間72件、売上64.8万円
- 看護師Cさん:月間60件、売上54.0万円
このように個人別のデータを出すことで、「全体の訪問件数は足りているが、特定のスタッフの生産性が低い」といった課題が明確になります。ただし、この数値は指導のためではなく、サポートのために活用することをおすすめします。件数が少ないスタッフには、スケジュール調整や同行訪問などの支援を行うことが大切です。
ステップ3:訪問件数の最適化
生産性のボトルネックが分かったら、訪問件数の最適化に取り組みます。
- スケジュールの再設計:曜日・時間帯ごとにエリア分けしたスケジュールを組む
- エリアの見直し:移動時間が長い訪問先を整理し、エリアを集約する
- 新規利用者の獲得:周知活動を仕組み化し、安定した新規紹介を確保する
訪問件数の最適化は、スタッフへの負荷増ではなく、無駄な移動を減らして効率よく訪問できる環境をつくることが本質です。
ステップ4:採用チャネルの多様化
人材紹介会社への依存度を下げるために、複数の採用チャネルを育てることも検討しましょう。
特に、自社採用サイトやSNS発信で人材確保できるようになると、低コストで継続して採用活動できるようになります。
| 採用チャネル | コスト感 | 即効性 | 継続性 |
| 人材紹介会社 | 高(年収の20〜35%) | 高 | 低 |
| 求人広告(Indeed等) | 中(月数万円〜) | 中 | 中 |
| 自社採用サイト | 低(初期構築費のみ) | 低 | 高 |
| SNS発信 | 低(人件費のみ) | 低 | 高 |
| スタッフ紹介制度 | 中(紹介報奨金) | 中 | 高 |
| ハローワーク・ナースセンター | 無料 | 低〜中 | 中 |
すぐに紹介会社をゼロにする必要はありません。中長期的に自社採用の比率を高めていくことで、採用コストを段階的に削減できます。
ステップ5:定着施策の実施
採用コストを抑えるだけでなく、離職を減らすことが人件費率の改善に直結します。
- 入職後3ヶ月間のフォロー体制:メンター制度やプリセプター制度の導入
- キャリアパスの明示:3年後・5年後の成長イメージを共有する
- 働き方の柔軟性:時短勤務やフレックスタイムの導入
- 心理的安全性の確保:意見を言える風土づくり、定期的な1on1面談
離職率を10%改善するだけで、年間の採用コストが数百万円単位で削減できるケースは少なくありません。
訪問看護の人件費率管理で陥りがちな3つの間違い

人件費率を改善しようとする際に、多くのステーションが陥りがちな間違いが3つあります。これらを避けることが、持続的な経営改善の鍵です。
間違い①:給与を削減して人件費率を下げようとする
最もやってはいけないのが、スタッフの給与を下げることです。給与カットは一時的に人件費率を下げますが、会社への信頼がなくなることで離職を招き、中長期的には経営を悪化させます。
訪問看護は人がすべてのビジネスです。人材を失えば売上が消え、結果的に人件費率は悪化します。
間違い②:インセンティブ制度で訪問件数を増やそうとする
「訪問1件あたり○○円」というインセンティブ制度は、一見すると合理的に見えますが、重大なリスクがあります。
- 短時間で訪問を切り上げ、ケアの質が低下する
- 利用者のニーズよりも件数を優先する行動が増える
- スタッフ間の公平性に不満が生じる
- インセンティブが固定費化し、元に戻せなくなる
インセンティブは結果に対する報酬ですが、本来管理すべきはプロセスです。
動画「インセンティブ制度の落とし穴」では、安易なインセンティブ導入がかえって経営を圧迫するメカニズムを解説していますので、参考にしてみてください。
間違い③:人件費率だけを見て売上を無視する
人件費率は、人件費÷売上で算出される結果指標です。人件費率が高いという事実だけを見ても、原因が分かりません。
- 人件費が適正なのに売上が不足しているのか
- 売上は十分なのに人件費が過大なのか
- 両方に問題があるのか
このように、どこがボトルネックとなっているのかを把握しましょう。
また、UPDATEでは、結果指標ではなく先行指標を管理することを重視しています。先行指標とは、結果の前段階にある訪問件数・新規紹介数・離職率・採用コストなどです。
人件費率という結果指標を変えるためには、これらの先行指標を日常的にモニタリングし、改善していくことが重要です。
訪問看護で人件費率を定期チェックする方法

人件費率を適正に保つには、月次での定期チェックが欠かせません。チェックシートの活用・KPI※の設定・経営会議での共有という3つの仕組みを整えることで、問題の早期発見と迅速な対応が可能になります。
※KPI……重要業績評価指標のこと。組織の最終目標(KGI)を達成するための中間指標
チェックシートの活用
以下の項目を記録・確認してください。
| チェック項目 | 目標値 | 今月実績 | 前月実績 |
| 人件費率 | 78%以下 | ―% | ― |
| 看護師1人あたり訪問件数 | 80件以上 | ―件 | ― |
| 新規紹介数 | 月4件以上 | ―件 | ― |
| 終了者数 | ― | ―名 | ― |
| 離職者数(1年の累計) | 0〜1名以下 | ―名 | ―(累計) |
| 採用コスト(1年の累計) | ― | ―万円 | ―(累計) |
KPIの設定
人件費率70%以下を達成するためのKPIを逆算して設定します。
例えば、看護師1名あたりの月額人件費50万の場合(法定福利等を含め)
- 必要な売上:50万/70% = 約75万円
- 平均訪問単価:9,000円(仮定)
- 必要な訪問件数:75万円/9,000円=約83件
上記のように、約80件強を目標に件数を回ると、一人当たりの人件費率は70%以下にとどめられます。ただし、実際には携帯などの通信費、車両費、共通で使う事業所の賃料なども発生するため、80〜100件程度を訪問目標と設定して毎月の稼働率を管理する事業所が多く見られます。
経営会議での数値共有
月次の数値は、管理者が1人で眺めるだけでは改善につながりません。定期的な経営会議(月1回以上)で、以下の手順で共有しましょう。
- 前月の実績報告:チェックシートをもとに数値を共有
- 差異分析:目標と実績の差の原因を特定
- 改善アクションの決定:来月に向けた具体的な行動を決定
- 進捗確認:前月決めたアクションの実施状況を確認
数値管理を仕組みにすることで、属人的な経営から脱却できます。
よくある質問(FAQ)

Q1. 人件費率の計算に含めるべき項目は何ですか?
人件費率を正確に算出するには、基本給・各種手当・賞与に加え、法定福利費(社会保険料の事業主負担分)を含めるのが基本です。さらに経営判断としては、採用費(紹介手数料・求人広告費)や教育研修費も広義の人件費として捉え、トータルコストで管理することをお勧めします。
Q2. 人件費率が60%台でも問題はありますか?
人件費率が低すぎる場合、利益が出るものの給与水準がスタッフの期待を下回っている可能性があります。一時的に利益が出ていても、離職リスクが高まり、中長期的には人材確保が困難になる恐れがあります。人件費率65〜75%程度が健全な範囲であり、必要に応じてスタッフへの還元や教育投資に充てることを検討してください。
Q3. 開業初期の人件費率が100%を超えています。どうすればいいですか?
開業初期は利用者が少なく売上が限られる一方、最低人員基準を満たすための人件費は固定で発生します。そのため、人件費率が100%を超えること自体は異常ではありません。開業初期に重要なのは、新規利用者の獲得ペースを上げることです。月間の新規紹介目標を設定し、営業活動を最優先で進めてください。
人件費率を管理して、安定した経営へ

人件費率の適正管理は、労働集約型ビジネスモデルである訪問看護ステーション経営の根幹です。人件費率78%以下を目標に、①見える化→②生産性把握→③件数最適化→④採用チャネル多様化→⑤定着施策の5ステップを実践してください。
大切なのは、人件費を削るのではなく、売上を伸ばすことで比率を改善する視点です。そして、結果指標である人件費率だけでなく、その手前にある先行指標を日常的にモニタリングする仕組みを整えましょう。
訪問看護の経営を体系的に学びたい方は、訪問看護ステーション経営ガイドをご覧ください。

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