訪問看護ターミナルケア加算とは?医療保険・介護保険での算定要件と運用を解説

訪問看護において、終末期の利用者様を自宅で支援するターミナルケアは特に重要な役割を担います。利用者様が最期まで安心して暮らせる環境を整えるためには、ターミナルケア加算やターミナルケア療養費の活用を正しく理解し、組織全体で連携を図ることが不可欠です。
本記事では、介護保険と医療保険それぞれの仕組みや加算算定の要件、運営上の注意点などを包括的に解説しますので、ぜひ参考にしてください。

目次
訪問看護のターミナルケア加算とは

訪問看護ステーションが終末期にある利用者様を支える際、ターミナルケア加算は運営面でも質の面でも大きな支えとなります。ここではまず、ターミナルケア加算の定義や終末期による訪問看護の位置づけ、そして改定動向を押さえ、今後の方針を検討するための基礎知識を整理します。
ターミナルケア加算の定義
ターミナルケア加算とは、終末期ケアが必要な利用者様に対して、訪問看護を集中的かつきめ細やかに提供した事業所を対象とする評価制度です。一般的には、余命が限られた利用者様が在宅で最期を迎えられるように体制を整えたうえで、夜間や休日の対応や急変時のフォローなどを行うことで算定されます。
ケア内容としては、痛みや不安の緩和、精神的な支援、必要に応じた医療的ケアの実施などが含まれます。ターミナルケア加算を活用することで、終末期における負担を補てんし、質の高い看取りサービスを維持しやすくなる点が特徴です。
終末期による訪問看護の位置づけ
終末期における訪問看護は、積極的な延命治療というよりも、利用者様の苦痛を和らげ、最後の時間を穏やかに過ごしていただくための支援に重きを置くものです。在宅でのケアを希望する利用者様が増える中、訪問看護は医師やケアマネージャー、ヘルパーなど多職種での連携とともに、利用者様とご家族の意思を尊重しながら対応する役割を担います。
ターミナルケア加算の存在によって、終末期に特有の集中ケアや緊急対応が評価され、事業所としても必要な人材配置や教育を進めやすくなるでしょう。地域の在宅療養を支える上で、終末期ケアの充実は訪問看護に不可欠な要素といえます。
改定に伴う最新動向と背景
近年の制度改定では、ターミナルケア加算に関する要件が強化されており、24時間体制や看取り計画の策定などがより明確に求められるようになっています。背景には、在宅で最期を迎えたいというニーズの高まりや、医療機関の病床負担軽減を図る社会的要請が挙げられます。
こうした流れを受け、終末期ケアを充実させる訪問看護ステーションが増えつつあり、地域の医師やケアマネージャーとの情報共有や連絡体制を強化する事業所も増加傾向です。加算基準が変動することもあるため、最新の情報をいち早くキャッチし、運営上の戦略に反映させることが経営者や管理者には求められます。
介護保険によるターミナルケア加算の仕組み
介護保険を利用している利用者様に対するターミナルケア加算は、訪問看護ステーションが終末期の看護サービスを提供するうえで重要な評価軸となります。以下では主な単位数と評価内容、加算算定の具体的要件、事業所が押さえておきたい運用上のポイントを解説します。
主な単位数と評価内容
介護保険でのターミナルケア加算は、利用者様が亡くなった月に一定の訪問回数や内容を満たした場合に加算されるケースが多いです。加算単位数は数百単位程度で設定されており、最後の月における集中的な訪問や綿密なケアが評価対象となります。
評価内容としては、終末期特有の身体ケアや精神的ケア、緊急時の対応、在宅での看取りに向けた総合的なマネジメントなどが考慮されます。この加算を算定することで、事業所は終末期ケアに伴う費用や人員配置の負担を一部補てんしながら、利用者様やご家族への支援をより手厚く行いやすくなります。
加算算定の要件
介護保険でターミナルケア加算を算定するには、いくつかの要件を満たす必要があります。本人による意思決定を基本として、医師が利用者様の状態を終末期と判断していること、また看取りに向けた具体的な方針やケア内容が訪問看護計画書などに明記されていることが前提となります。
さらに、死亡月に一定回数以上の訪問看護が行われていることや、緊急時対応を含む24時間連絡体制の整備などが求められます。要件をクリアしていても、記録漏れや計画書の不備があると加算を取得できないことがあるため、管理者はスタッフの記録レベルや計画書の更新状況を常に把握するようにしましょう。
参照:厚生労働省「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」
事業所が留意すべき点
ターミナルケア加算を算定するためには、訪問回数や計画書の整備だけでなく、利用者様やご家族との十分なコミュニケーションが欠かせません。終末期に向けてのケア方針や最期を迎える場所の希望など、センシティブな内容を慎重に確認し、同意を得るプロセスを丁寧に行う必要があります。
また、スタッフのシフト管理や緊急出動時のオペレーションなど、実務面での混乱を防ぐ体制づくりも重要です。
さらに、加算算定に当たっては監査リスクを念頭に、訪問記録やカンファレンス記録を適切に残すことが求められます。こうした点を踏まえ、ステーション全体で連携しながら計画的に取り組むことが、加算取得と質の高い看取りケアの両立を実現します。
医療保険のターミナルケア療養費

医療保険適用下では、ターミナルケア加算に相当する仕組みとして「訪問看護ターミナルケア療養費」が存在します。介護保険との違いを正確に把握し、利用者様の保険種別に合わせた運用を行うことが管理者や経営者にとって重要な課題となります。
訪問看護ターミナルケア療養費の概要
医療保険でのターミナルケア評価は、「訪問看護ターミナルケア療養費」という名称で設けられています。これは、終末期にある利用者様に対して、死亡日を含む直前の継続訪問や医療的ケアを提供した際に算定される費用です。
介護保険のターミナルケア加算とは別枠の評価となり、医療保険適用の利用者様が在宅で最期を迎える場合に活用されます。単位数(点数)は比較的高く設定されていることが多い反面、訪問回数や記録などに厳格な基準が設けられているため、事業所としては要件の確認と準備が欠かせません。
1と2の違いと算定基準
訪問看護ターミナルケア療養費は、利用者が最期を迎えた場所や看取り介護加算の有無で「1」と「2」が区別されます。
1は在宅で亡くなった方や特別養護老人ホーム等で看取り加算を算定していないケースが対象となり、2は特別養護老人ホーム等で死亡し、看取り介護加算を算定している利用者に適用されます。この差により、重複算定の防止や対象者の明確化が図られています。
請求手続きと必要書類
医療保険でターミナルケア療養費を請求する場合、死亡月の訪問看護実施記録や医師の指示書、死亡診断書の写しなどが必要となるケースが一般的です。請求書類には、訪問回数や時間帯、実施内容を細かく記載し、特に死亡日前後の対応については詳細を残すことが重要です。
書類に不備があると返戻や再請求が必要になり、経営面での負担が大きくなる可能性があります。請求手続きは医療保険のルールに従って行われるため、介護保険でのターミナルケア加算とは異なる申請フローや提出書類を把握する必要があります。こうした手続きを適切に運用することで、終末期ケアへの対価を確保しやすくなります。
算定に必要な体制整備
ターミナルケア加算やターミナルケア療養費を正しく算定するためには、事業所全体で終末期対応の体制を整えておくことが重要です。ここでは24時間連絡体制や緊急訪問の準備、さらに看取りケア計画とスタッフ教育のポイントをまとめます。
24時間対応の連絡体制
終末期の利用者様は、夜間や休日にも急な体調変化が起きやすく、迅速な対応が求められます。そのため、ターミナルケア加算やターミナルケア療養費の算定要件の一つに、24時間連絡体制の整備が含まれます。管理者としては、スタッフ間のオンコール体制を明確にし、緊急連絡先を利用者様やご家族にわかりやすく案内することが大切です。
連絡体制の整備には費用や人員確保の課題もあるため、シフト組みや電話対応マニュアルの作成など、事前の準備が欠かせません。しっかりとした24時間対応が行われることで、利用者様とご家族は安心感を得られ、最期の時間を自宅で過ごす選択をしやすくなります。
緊急訪問の受け入れ準備
終末期の利用者様には、スケジュール外の訪問が急に必要となる場面が多くあります。管理者は、緊急訪問に対応できるスタッフ配置や、訪問に必要な什器の保管・管理などを整備する必要があります。夜間や休日の移動手段を確保することも重要で、車両を使う場合や公共交通機関を利用する場合など、さまざまなシナリオを想定しておくと良いでしょう。
また、緊急訪問後の報告フローを明確化し、医師やケアマネージャーに適切な情報を早急に伝えられるようにしておくことで、多職種との協働がスムーズに進む可能性が高まります。
看取りケア計画とスタッフ教育
ターミナルケアにおいては、利用者様の意思を尊重した看取りケア計画の策定が不可欠です。医師やケアマネージャー、ヘルパーなど多職種での連携を図りながら、身体的な苦痛の緩和だけでなく、精神面や社会的なサポートも含めた包括的な計画を立案します。また、スタッフ教育も重要な要素です。
終末期ケアに対する理解や緊急時の判断力、コミュニケーションスキルなど、専門的な知識と実践力が求められます。定期的な研修やケースカンファレンスなどを通じて、スタッフ全員が同じ方向性と情報を共有し、利用者様へのケアの質を高められる体制を築くことが理想といえます。
関連記事:訪問看護での教育体制と構築の手順|成功のポイントも紹介!
ターミナルケア加算のメリット
ターミナルケア加算を適切に算定することで、事業所は経営の安定だけでなく、地域での信頼獲得やスタッフのモチベーション向上にもつなげることが可能です。以下では、終末期ケアに注力することの具体的なメリットを3つの視点から整理します。
質の高い終末期ケアの提供
ターミナルケア加算を取得するためには、24時間体制や看取りケア計画、スタッフの研修など、終末期ケアに特化した仕組みづくりが求められます。これらの条件を整備する過程で、事業所全体のケア品質が向上し、利用者様やご家族が在宅で安心して最期を迎えられるサポート体制を実現しやすくなる点が大きな魅力です。
質の高い終末期ケアは、医療機関や他事業所からの紹介も増えやすく、地域におけるステーションの評判を高める効果も期待できます。こうした取り組みが、さらにスタッフのモチベーションを高める好循環を生み出す可能性があります。
利用者様の在宅生活の継続支援
終末期でもできる限り自宅で暮らし続けたいと考える利用者様にとって、訪問看護のターミナルケア加算は大きな後押しとなります。事業所が加算を算定できるほどの対応力を備えていれば、夜間や休日にも迅速にケアを受けられ、安心感が高まるでしょう。
利用者様の心身の状態に合わせて訪問回数やケア内容を柔軟に調整できるため、急な症状の変化にも対応しやすくなります。結果として、自宅での生活をあきらめずに最期の時間を過ごす選択肢を提供できることは、利用者様やご家族にとって大きな価値となります。
経営面での安定と地域連携の強化
ターミナルケア加算を算定することで、訪問看護ステーションは終末期ケアに対するコストをある程度補てんでき、経営面での安定化を図ることができます。終末期ケアは手厚い体制と緊急対応を伴うため、スタッフや運営にかかる負担が増大しがちですが、加算による収益が確保できれば、長期的な戦略として積極的に取り組みやすくなるでしょう。
さらに、終末期ケアの実績が蓄積すれば、地域の医師やケアマネージャーから信頼され、連携が強化される可能性があります。結果として、地域における訪問看護の中核的な役割を担い、さらに事業を拡張していく基盤が整うことが期待できます。
算定時に注意すべきポイント
ターミナルケア加算やターミナルケア療養費を取得するには、死亡月の訪問回数や計画書の整合性など、細かな要件を満たす必要があります。ここからは、算定時に特に注意したい点を3つに分けて説明し、返戻リスクを低減するための方法を探ります。
死亡月の訪問回数・期間
多くの算定要件では、死亡月に一定回数以上の訪問を実施していることが求められます。具体的な回数は制度や保険種別によって異なりますが、終末期の利用者様を集中してサポートする姿勢が評価対象となるのが一般的です。
訪問スケジュールが不足していると算定対象外になる可能性があるため、管理者はスタッフの配置やシフト調整を行いながら、必要回数を確実に満たす計画を立てましょう。また、訪問記録の正確性も重要で、時間帯や実施内容を詳細に記載することが後の監査でのトラブル回避につながります。
計画書や記録の整備
ターミナルケア加算やターミナルケア療養費では、看取りケア計画や訪問記録の整備が必須となります。具体的には、終末期ケアにおけるゴール設定や訪問頻度、スタッフ間での連携状況などを明確に示す必要があります。
また、緊急訪問や夜間対応が発生した場合、そこでのケア内容や利用者様の状態を漏れなく記録し、医師など関係者との情報共有を行うことも重要です。計画書と実際の訪問記録に乖離があると、加算が認められない、あるいは返戻となるリスクが生じるため、常に最新の状況を反映するようにしましょう。
利用者様の意思確認・同意の取り扱い
終末期ケアでは、利用者様本人やご家族の意向を尊重した対応が必要不可欠です。ターミナルケア加算を算定するには、在宅での看取りに関する意思確認や、必要なケアの内容についての同意を十分に得るプロセスが求められます。
記録としては、同意書の有無だけでなく、どのような説明を行い、どんな質問や意見があったかなど、細かいやりとりも書き留めておくと信頼性が高まります。意思確認が不十分なままケアを続けると、後になってトラブルになるケースも少なくないため、コミュニケーションと記録の徹底が大切です。
運用事例と実践的アプローチ

ターミナルケア加算を効果的に活用するには、地域の医療機関や他事業所と連携を深めながら、看取りケアの質を高める取り組みが欠かせません。以下では、実際の運用に役立つ3つのアプローチとして、多事業所連携、質向上の仕組み、柔軟なスケジュール管理を紹介します。
他事業所や医療機関との連携
終末期の利用者様を支える際、訪問看護ステーションだけで対応しきれない場面は少なくありません。医師やケアマネージャー、ヘルパーなど多職種での連携を強化し、緊急時や医療的ケアの調整がスムーズに進むようにすることが求められます。
例えば、定期的にカンファレンスを開催し、利用者様の状態やケア内容を確認・共有する体制を整えると、判断の遅れや情報伝達ミスを防ぎやすくなります。また、他事業所とも協力して終末期ケアに関する勉強会や情報交換を行うことで、地域全体の在宅ケアの水準を底上げすることも期待できます。
関連記事:訪問看護の多職種連携の必要性とは?看護師の役割や課題を解説!
看取りケアの質向上を目指す取り組み
ターミナルケア加算の取得をきっかけに、看取りケアの質を高める取り組みを継続的に行う事業所も増えています。具体的には、スタッフ同士が看取り事例を共有し、ケアの成果や課題を検討するケースカンファレンスの実施が挙げられます。
また、外部研修を活用して症状緩和やコミュニケーション技術を学ぶなど、専門性を高める機会を設けることも効果的です。このような取り組みを進めることで、利用者様へのケアがより個別性の高いものとなり、在宅での看取りを選択する方々からの信頼が一層厚くなるでしょう。
臨機応変な訪問スケジュール管理
終末期の利用者様は、体調の変化が急激に現れることが多く、あらかじめ組んだ訪問スケジュール通りには進まないケースが少なくありません。そこで、管理者はスタッフのシフトを柔軟に組み替えられる仕組みを用意し、急な訪問が必要になった際にもスムーズに対応できるようにしておくことが重要です。
さらに、オンコール担当を増やす、複数名体制での緊急対応を想定するなど、突発的な状況に対するマニュアル整備を行うことで、現場の負担を軽減しつつ、利用者様が安心して在宅で過ごせる環境を守りやすくなります。
まとめ
訪問看護のターミナルケア加算は、利用者様が終末期を自宅で過ごすうえで必要となる包括的な支援を評価する仕組みです。介護保険と医療保険の違いを把握し、体制整備や記録管理を徹底することで、事業所は質の高い看取りケアを提供しながら経営の安定を図ることが可能になります。
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