訪問看護長時間加算とは?算定要件と事業所運営のポイントを解説

訪問看護の長時間加算は、利用者様に対して手厚い在宅ケアを提供するときに活用できる重要な仕組みです。介護保険と医療保険で算定条件が異なり、加算を正しく理解して運用することで、事業所の安定とケア品質の両面を向上させることが期待できます。
本記事では、長時間加算の概要や算定方法、導入による事業運営への影響まで、押さえておきたいポイントを詳しく解説します。

目次
訪問看護長時間加算の基本概要

長時間加算は、在宅での看護を長時間提供する際に評価される制度です。利用者様のニーズが高まっている背景を踏まえ、適切に算定することで質の高いサービスを継続的に行いやすくなります。ここでは、長時間訪問看護加算の定義と、加算を活用する目的についてまとめます。
長時間訪問看護加算とは何か
長時間訪問看護加算は、訪問看護師が1回の訪問で1時間半以上のケアを提供した場合に算定できる加算です。例えば、通常の短時間訪問だけでは不十分なケースや、複数の医療的ケアが重なり合う利用者様に対して、一度に集中的な看護を行うときに適用されます。
身体面だけでなく、精神面のケアや生活支援を含めて総合的に対応する必要がある場合、長時間訪問が実現しやすい仕組みになっている点が特徴です。
こうした加算を用いることで、より手厚いケアを行うステーションにとって経営上の負担軽減とサービス向上の両立が期待できます。スタッフが集中してケアする時間を確保しやすくなるため、利用者様のQOL向上にも寄与しやすいといえます。
参照:訪問看護|厚生労働省
加算を活用する背景と目的
長時間訪問看護加算の背景には、在宅医療ニーズの増加と利用者様の重症化が進んでいる現状があります。病状が複雑化している方や、複数の合併症を抱える利用者様が在宅で生活を続けるためには、看護師が長時間かかわる必要性が高まります。
また、従来の短時間訪問では対応しきれない医療的ケアや精神的サポートを包括的に行うためにも、まとまった時間が求められる場面が増えています。
加算を活用することで、事業所はスタッフの配置やシフト管理を柔軟に行い、利用者様のケアをトータルで支えやすくなります。結果的に、安定した事業運営とケアの質向上を両立させる施策として注目されています。
介護保険における長時間訪問看護加算
介護保険での長時間加算は、高齢者の在宅生活を支える訪問看護サービスを長時間にわたって提供した際に評価される仕組みです。ここからは、具体的な加算単位数や算定対象者の特徴、さらにケアプランへの組み込み方を見ていきます。
加算単位数と算定対象者の特徴
介護保険での長時間訪問看護加算は、通常の訪問看護費用に上乗せする形で設定されます。加算される単位数は1日300単位で、訪問の所要時間や利用者様の状態に応じて細かく分類される場合があり、あらかじめ算定基準をしっかり把握しておくことが大切です。
対象となるのは、身体介助や医療的ケアの頻度が高い利用者様をはじめ、日常生活支援やリハビリの時間がどうしても長くなる方などが挙げられます。こうした利用者様のニーズに合わせて、計画的に長時間訪問を組み込む運用が鍵となります。
主な算定要件と留意点
長時間加算を算定するには、介護保険の規定で定められた要件を満たす必要があります。まず、サービス提供時間を正確に計測し、訪問記録に反映させることが必須です。また、利用者様の同意やケアマネージャーとの調整が事前に行われているか、担当スタッフの資格や体制が整っているかといった点も確認される場合があります。
算定に不備があると返戻のリスクが高まるため、訪問ごとの所要時間やケア内容をしっかりと記録し、何か疑問があれば事前に制度を運営する自治体や関連機関に問い合わせることが重要です。介護保険では特に、他の介護サービスとの重複利用による制限が設けられることがあるため、計画書の作成時点で十分に注意する必要があります。
利用者様のケアプランへの反映方法
長時間訪問看護を実施する際は、ケアマネージャーが作成する居宅サービス計画(ケアプラン)に明確に組み込むことが求められます。具体的には、長時間訪問を必要とする理由や目標、提供するケアの内容などを細かく記載し、各回のサービス時間との整合性をとることがポイントです。
利用者様やご家族とのコミュニケーションを通じて、どの程度の時間を要するケアが必要なのかを明確化し、ほかの介護サービスともスケジュールが重ならないように調整を行います。事前にケアマネージャーへ計画を説明し、必要性を正しく理解してもらうことで、加算算定の根拠となるケアプランがスムーズに作成・運用されます。
関連記事:訪問看護のケアプラン文例について各ニーズごとの記載例紹介
医療保険における長時間訪問看護加算
医療保険下での長時間加算は、重症度の高い利用者様や精神科対応など、より専門的な看護が必要とされる場面で重要となります。ここでは、通常加算と精神科対応の違い、加算の要件と時間基準、さらに算定頻度に関する注意点を解説します。
通常の長時間加算と精神科対応の違い
医療保険での長時間訪問看護加算には、一般的な身体疾患を対象とした加算と、精神疾患や認知症ケアなどに対応した精神科訪問看護特有の加算が存在します。精神科対応は、症状の波が激しいケースや、コミュニケーションに時間を要する場合があり、看護師が利用者様の状態を丁寧に把握しながら長時間ケアを行う必要があります。
そのため、一定時間を超える訪問が想定される場合に適用される仕組みが設けられています。精神科ならではの訪問看護指示書の内容や、医師との連携がより綿密になる点が特徴で、スタッフにも高度な専門知識と柔軟な対応力が求められます。
加算算定の要件と時間基準
医療保険の長時間加算を算定するには、定められた時間基準をクリアし、利用者様の状態に合ったケアを提供する必要があります。算定料は、1日5,200円で、1回の指定訪問看護の時間が1時間30分を超えることが要件です。実際の算定にあたっては、医師やケアマネージャー、ヘルパーなど多職種での連携を行い、訪問内容と所要時間を記録に反映させます。
また、精神科対応のように心理的ケアや服薬管理に時間を要する場合は、さらに詳細な記録が求められる場合があります。医療保険特有のルールがあるため、誤った算定や不備を避けるためにも、定期的に関連法規をチェックすることが欠かせません。
算定回数や実施頻度に関する注意点
長時間訪問看護加算は、必要性が高い場合に繰り返し算定できる仕組みですが、頻度や回数には上限が設けられていることがあります。例えば、1か月に数回までと制限されるケースや、継続的な長時間ケアが難しい仕組みとなっている場合があります。
こうした制限を把握せずにサービスを提供すると、事後の請求で返戻を受けるリスクがあるので注意が必要です。あらかじめ医師やケアマネージャーと相談し、どのタイミングで長時間訪問を実施するか、計画的に見極めることが大切です。
利用者様の症状や生活状況を踏まえて、最適な時間配分を検討しながら算定ルールを守ることが、事業所の安定運営につながります。
長時間加算導入による事業運営への影響
長時間訪問看護加算を活用することで、経営バランスやスタッフ配置、地域連携の面でさまざまな影響が現れます。ここでは、加算収益と運営バランス、訪問スケジュールの組み方、そしてサービス拡充の可能性について考えます。
加算収益と経営バランス
長時間加算を算定できれば、その分の収益がプラスされ、スタッフ配置や研修費などに回す資金に余裕が生まれる可能性があります。一方で、長時間訪問によって1日に訪問できる件数が限られるため、短時間訪問のような回転率は下がりがちです。
適切に収支バランスを保つためには、利用者様のニーズに応じて長時間訪問と短時間訪問をうまく組み合わせる経営戦略が欠かせません。
特に、複数の利用者様が同時に緊急対応を求める状況を想定し、追加のスタッフを雇用する必要があるかなどを事前に検討しておくことが重要です。加算による収益増と、訪問に要するリソースとのバランスを常に見極める姿勢が求められます。
スタッフ配置と訪問スケジュール調整
長時間訪問看護には、スタッフのシフト管理と訪問スケジュールの調整が大きく影響します。長時間訪問が増えると、1人のスタッフが1日あたりに対応できる利用者様の数が減るため、他のスタッフとの連携や交代が必要になります。管理者は、どのスタッフがどの程度の時間を確保できるか、適切に把握してシフト表を組まなければなりません。
また、利用者様側の事情で訪問時間が急に変わる場合もあり、その都度の再調整が求められます。こうした柔軟な対応を行うには、スタッフ同士のコミュニケーションやマニュアルの整備が欠かせず、結果的に組織全体の連携力が試される場面といえます。
地域連携とサービス拡充への可能性
長時間訪問看護を実施できる体制を整えているステーションは、地域での信頼度が高まり、医師やケアマネージャー、ヘルパーなど多職種での連携も強化される可能性があります。特に、重度の医療的ケアや精神的ケアが必要な利用者様に対して「長時間でも対応できるステーション」として認知されると、紹介や依頼が増えるチャンスもあります。
これにより、訪問看護の専門性をさらに高める研修や設備投資などを行うことで、新たなサービス領域へ拡張する機会も得やすくなるでしょう。一方で、急激な利用者様増加に対してスタッフや什器が追いつかない状況に陥らないよう、段階的な拡充を心がけることが重要です。
長時間訪問看護の実施に伴うメリット

長時間訪問を行うことで、利用者様へのケアの質が向上し、組織の専門性も高まるなど、さまざまなメリットがあります。以下では、サービス提供の具体的な利点を整理し、事業所が受ける恩恵を3つの観点から見ていきます。
質の高いケア提供の実現
短時間訪問では把握しきれない細かな状態や生活背景を、長時間訪問ではじっくりと観察できるため、よりきめ細やかなケアを実施しやすくなります。例えば、日常生活動作の確認や精神的ケア、リハビリの実践まで、一度の訪問で包括的に対応できる点が大きな利点です。
利用者様とのコミュニケーションも深まりやすく、信頼関係を構築しやすいことから、病状の変化や潜在的なリスクを早期に察知できる可能性が高まります。こうした質の高いケアが継続的に提供されることで、利用者様の生活の質だけでなく、事業所の評価とブランド力の向上にも寄与します。
利用者様の状態変化への柔軟対応
長時間訪問は、利用者様の状態が急に変化した場合でも、その場で迅速かつ十分な対応を行いやすい特徴があります。体調が急激に悪化したり、精神的な不安が強まったりした際に、短時間ではフォローしきれないケアをすぐに提供できる余裕が生まれます。
必要であれば、医師との連絡を取って指示を確認しながら、追加の医療的ケアを実施するといった柔軟なアプローチが可能です。こうした機動力は、在宅療養を選択する利用者様とご家族の安心感につながり、結果的にステーション全体の信頼性を高めるポイントとなります。
ステーションの専門性向上と信頼性確保
長時間訪問に対応する体制を整えると、スタッフの技能レベルや協働体制が自然と向上していくメリットがあります。例えば、複雑な医療的ケアやリハビリを行う中で、スタッフ同士が情報を共有し合い、課題を解決していく流れが生まれます。
こうしたプロセスは、組織全体の専門性を引き上げると同時に、新人スタッフの育成やチームビルディングにもプラスに作用します。
また、高度なケアを提供できるステーションとしての評価が地域に広まり、医師やケアマネージャーからの信頼を獲得しやすくなる点も見逃せません。結果として、新規利用者様の獲得や地域貢献の拡大につながる可能性が高まります。
算定時に注意すべきポイント
長時間加算を算定する際には、訪問実施時間と記録の整合性、利用者様の同意手続き、そして他サービスとの重複に関する制限など、いくつかの留意点があります。しっかりと把握しておかないと、返戻やトラブルを招くリスクが高まるため注意が必要です。
訪問実施時間と記録の整合性
長時間加算を請求する場合、訪問開始・終了時刻を正確に記録し、実際のケア内容がその時間内で実施されていることを明示する必要があります。もし記録と実際の時間にズレがあったり、計算方法が曖昧だと、監査で不備を指摘される可能性が高まります。
スタッフが忙しい時間帯ほど記録が雑になりがちですが、誤記は返戻の原因となり、事業運営にも悪影響を及ぼすため厳重に管理しましょう。可能であればシステムやアプリを活用し、訪問時間の自動計測や業務内容の簡易入力を徹底することで、人的ミスを防ぎやすくなります。
利用者様の同意とケア計画書の管理
長時間の訪問看護を行う場合は、利用者様やご家族の同意が不可欠です。特に、1回の訪問が長時間におよぶ理由や目的をわかりやすく説明し、了承を得ておくことで後々のトラブルを回避できます。ケア計画書にも、長時間訪問を行う理由やサービス時間を明記し、ケアマネージャーや医師と連携して更新作業を行うことが大切です。
また、利用者様の状態変化によっては、急に短時間訪問へ切り替えたり、その逆もあり得るため、計画書の修正をスピーディに行う仕組みを整えておくと安心です。こうした手続き面の整合性が取れていないと、返戻リスクが高まるため注意しましょう。
他サービスとの重複や制限の確認
長時間訪問を行う同じ時間帯に、他の介護サービスや医療サービスが重複していないかを確認することは非常に重要です。例えば、ヘルパーが同時に入っている時間帯に長時間訪問看護を実施すると、請求の重複や不整合が起きる可能性があります。
事前にケアマネージャーとスケジュール調整をしっかり行い、訪問時間の割り振りやサービス内容がかぶらないようにすることが求められます。また、制度上の上限回数や時間制限を超えないように細かくチェックし、疑問があれば自治体や関係機関に問い合わせるなど慎重な対応が必要です。
長時間訪問看護加算をめぐる課題と対策

長時間加算は事業所にとって大きなメリットをもたらしますが、算定基準の誤解やスタッフ体制の不足など、いくつかの課題が存在します。ここでは、返戻リスクや実施時間の確保、スタッフ教育などに焦点を当て、対処法を考えます。
算定基準の理解不足による返戻リスク
長時間加算の基準は、介護保険・医療保険それぞれで異なり、改定が行われるたびに要件が微妙に変わることも少なくありません。基準を誤って把握していると、訪問時間や記録方法で不備が発生し、請求時に返戻されるケースが見受けられます。
特にスタッフが複数いる事業所では、全員が同じ最新情報を共有していないと、統一したルールで訪問記録をつけるのが難しくなります。定期的に研修を行い、関連通知やガイドラインを確認する習慣をつけることで、基準違反やミスを最小限にとどめることが可能です。
実施時間の確保が難しいケースへの対応
事業所によっては、利用者様が多く、スタッフ数が限られているために、長時間訪問を行う余裕がない場合があります。特に、複数の利用者様から同時に要請があったり、緊急の依頼が重なると、1人に長時間を割くことが困難になるケースも考えられます。
こうした状況を解消するには、スタッフの増員やシフトの再編、オンコール体制の強化など、組織全体での働き方を見直す必要があります。また、他ステーションや地域の関連機関と連携し、利用者様の状態に応じて協力体制を築くことで、負担を分散させやすくなる場合もあります。
スタッフ教育とモチベーション管理
長時間訪問を行うには、スタッフに高い専門性とモチベーションが求められます。利用者様に合わせた医療的ケアやリハビリを長時間継続するため、スタッフは身体的・精神的に負荷がかかる場面も多いです。そこで、定期的な研修やケーススタディの共有により、スタッフが成功事例や課題を学び合える環境をつくることが重要です。
さらに、業務量が偏らないようにシフトを調整し、必要に応じて休暇や休憩を適切に取得できるしくみを整えることで、離職リスクを下げられます。こうした取り組みが、スタッフ全体のモチベーション向上とケアの質維持につながります。
まとめ
訪問看護の長時間加算は、利用者様への手厚いケアを実現しながら、ステーションの経営と専門性の両立を支える仕組みです。介護保険と医療保険で異なる要件を理解し、スタッフ体制や記録管理を徹底することで、質の高いケアと返戻リスクの回避が可能になります。
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