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訪問看護師が独立するための準備とは?知っておくべき10ステップを解説

訪問看護 独立

高齢化社会が進むなか、住み慣れた地域や自宅で療養生活を送る人々を支える「訪問看護ステーション」の重要性がますます高まっています。

本記事では、訪問看護ステーションの独立開業を考えている方や、既に開業している経営者・管理者に向けて、現状やニーズ、制度の変化、開業に必要な手続き、資金調達などの重要ポイントを網羅的に解説します。

訪問看護ステーションの全体像

高齢化が進む中、病院完結型から地域完結型の医療へとシフトしており、この在宅医療の核となるのが訪問看護ステーションです。

高齢化と訪問看護ニーズの拡大

高齢社会を迎えた日本では、医療費抑制や病院ベッド数の制限などを背景に、在宅医療への需要が高まっています。

2021年の介護保険による訪問看護利用者数は、58万7,658人と10年前の約3倍に増加しています。今後も市場の拡大が見込まれており、新規参入の余地は十分にあります。

参照元:コメディカルドットコム|訪問看護ステーションとは?役割や設置基準、最新データと将来性について

特に、自宅で療養したい利用者様や家族にとって、訪問看護ステーションは心強い存在です。

ただし、需要が伸びている一方で競合も増加しており、2020年には541か所の事業所が閉鎖しました。

独立開業を検討する際には、市場の飽和状態や地域ニーズをしっかり見極めることが重要です。

訪問看護の役割

訪問看護のサービス内容としては、病状の観察、医療処置、リハビリテーション、ターミナルケア、療養上の相談、ご家族への支援など、多岐にわたります。

訪問看護は、高齢者が住み慣れた地域で、自分らしく生活を送るためのサービスです。今後も、高齢化社会の進展に伴い、訪問看護のニーズはますます高まっていくことが予想されます。

訪問看護で独立するメリット・デメリット

訪問看護の独立開業には、高齢社会を支える社会的意義があると同時に、経営上のリスクも伴います。事業者としての裁量が大きい一方で、資金調達や人材確保、安定した利用者獲得といった課題に取り組む必要があるのが現実です。

メリット:社会貢献と経営の自由度

在宅医療を支えることで、地域に大きく貢献できます。自分の理念を反映したサービス提供ができるという点で、経営の自由度が高いことも魅力です。また、介護報酬や医療報酬といった公的保険を中心にしっかりと質の高いケアを提供し地域での信頼を得れれば安定収益を目指せるのもメリットの一つといえます。

デメリット:経営リスクと責任の重さ

一方で、資金不足や人材不足に直面したり、経営者として事業運営全体に責任を負うことによるプレッシャーが大きくのしかかる場合もあります。また、報酬制度の改定など外部要因によって収益が変動しやすい面にも注意が必要です。

訪問看護で独立するために必要な能力

訪問看護ステーション経営の成功には、以下の3つの能力が不可欠です。これらの能力は相互に関連し、三位一体となって事業の成長を支えるためおさえておきましょう。

必要な能力具体的な内容効果的な習得方法
経営能力事業計画の策定と管理、収支計画、資金繰り、介護報酬請求の理解、人件費管理既存ステーションでの管理者経験、経営セミナーへの参加、税理士や社労士との相談体制構築、介護事業の経営塾への参加
運営能力人材採用・育成、医療機関との連携、リスク管理体制、情報システム活用他施設での管理職経験、介護・医療保険制度の研修受講、システムベンダーの講習会、同業者とのネットワーク構築
現場力質の高い看護提供、チームワーク構築、緊急時対応、家族との信頼関係様々な診療科での経験、認定看護師資格の取得、事例検討会への参加

訪問看護で独立するまでの流れ

訪問看護で独立するまでの流れ

訪問看護で独立するまでの流れとして以下があります。

参考元:https://www.wiseman.co.jp/column/home-nursing/27976/

①事業計画書の作成

訪問看護ステーションを独立開業する際、まずは綿密な事業計画書を作成し、経営の方向性を明確にすることが重要です。具体的には、収益モデルやサービス対象エリアを定め、初年度の訪問件数目標や損益分岐点などの数値を設定します。

事業計画書は、金融機関の融資審査や指定申請の際にも求められる公的な書類ですが、同時に自分のビジネスを方向づける羅針盤ともなります。単なる形式ではなく、開業後の実践的な運営指針として完成度の高い計画を作り上げましょう。

②市場調査と競合分析

事業計画の精度を高めるためには、地域の高齢化率や在宅医療需要、さらには既存の訪問看護ステーション数などを把握し、競合他社との差別化を検討する必要があります。例えば、小児や精神科、ターミナルケアといった特化型サービスを展開することで、利用者ニーズに応えつつ競合との差別化を図る戦略も有効です。


この段階で、自分のステーションがどの疾患や年齢層を中心に支援するのか、あるいは24時間対応や特化した看護分野など、他にはない強みを打ち出せるかどうかを見極めることが、後の営業活動にも大きく影響します。

③法人設立の流れと要点

訪問看護ステーションを開業する場合、個人事業主ではなく法人格での運営が基本となります。まずは定款を作成し、法務局での登記を完了させ、その後に税務署や地方厚生局、社会保険事務所などへ必要な届出を行います。


法人設立にかかる費用や必要な期間を事前に把握し、開業までのタイムラインを逆算して準備を進めましょう。設立時に手続きなどで不手際があると、指定申請や融資などの手続き全般が遅れる可能性があるため、早めに着手することをおすすめします。

④資金調達と助成金の活用

資金不足は独立開業の大きなリスク要因です。初期費用だけでなく、開業後の運転資金も見据えて融資や助成金を検討しましょう。具体的には、銀行や日本政策金融公庫をはじめ、自治体による人材育成や設備投資を支援する補助金も選択肢に入ります。


融資の審査では、事業計画書の完成度経営者の経験、さらに返済能力などが重視されます。開業準備に時間をかけ、審査通過のハードルを下げるように入念に計画を作り込むことが成功への近道です。

資金調達の方法としては、以下の方法があります。

資金調達方法メリットデメリット審査ポイント
自己資金返済の必要がない資金が限られる
融資多額の資金を調達できる返済義務がある事業計画、経営能力、返済能力
助成金返済の必要がない支給要件が厳しい事業内容、所定の条件を満たしているか
補助金返済の必要がない支給要件が厳しい事業内容、所定の条件を満たしているか

⑤都道府県知事の指定申請

訪問看護ステーションとして保険請求を行うには、都道府県知事の指定を受ける必要があります。ここでは、人員基準(看護師の常勤換算数や管理者要件)、設備基準(事務所スペースやプライバシー確保など)、そして運営基準(緊急対応や記録管理など)を満たしているか細かく審査されます。

具体的な指定基準は以下の通りです。

人員基準:看護師等の配置人数が基準を満たしていること。具体的には、看護職員は2.5人以上(うち1人は常勤)、管理者は1人(保健師、助産師又は看護師)が必要です。

設備基準:事務所、相談室、通信設備などが基準を満たしていること。事務所は、訪問看護ステーションの業務を行うために必要な広さを有し、従業者及び利用者のプライバシーを確保できる構造である必要があります。

運営基準:サービス提供体制、記録の保管、緊急時対応などが基準を満たしていること。サービスの提供にあたり、利用者の心身の状況、置かれている環境、利用者及びその家族の希望等を踏まえ、適切な訪問看護を提供できる体制である必要があります。

参照元:https://careteam.jp/column/column003

書類の数が多いため、不備や提出期限超過に注意しましょう。申請前に担当部署に事前相談することでスムーズに手続きを進められます。

⑥加算の届け出と営業開始

24時間対応体制加算ターミナルケア加算など、追加の加算を請求したい場合は別途書類の提出が必要です。届け出のタイミングによって、適用開始時期が翌月になるか翌々月になるかなど変わるため、開業日や営業開始日と合わせてスケジュールを立てておきましょう。

加算を取得するには、夜間・緊急対応や専門的な看護体制を整備するなど、要件を満たすための準備も必要です。

⑦スタッフ採用と定着率向上

開業後の成功を左右する最大の要因が、優秀な看護スタッフやリハスタッフの確保です。看護師不足が深刻化する中、給与水準やシフト形態だけでなく、研修制度や職場風土も採用・定着の大きな決め手となります。

訪問看護ステーションで働くスタッフには、高いコミュニケーション能力、観察力、判断力、そして倫理観が求められます。必要な人員数や採用戦略は、事業計画に基づいて決定します。

採用活動では、さまざまな手段を活用して適切な人材を確保します。その中でも一般的な方法として以下が挙げられます。

まず、求人サイトに求人広告を掲載する方法があります。インターネットを利用したこの手法は、多くの求職者に情報を広く届けることができ、効率的な募集が可能です。次に、ハローワークを活用する方法です。ハローワークに求人票を提出することで、地域の求職者に向けた採用活動を行うことができます。特に地域密着型の採用に適しています。

また、eナースセンター(都道府県看護協会)に求人情報を掲載する方法もあります。看護職に特化した求職者と直接つながることができ、専門職の募集に適した手段です。さらに、知人や関係者からの紹介を受ける方法も有効です。信頼できるネットワークを通じて人材を確保することで、ミスマッチを減らすことが期待されます。

近年、訪問看護ステーションの数は増加傾向にあり、人材の確保は大きな課題となっています。

⑧営業活動と地域連携

利用者や紹介元を得るためには、病院や居宅介護支援事業所、地域包括支援センターなどとの連携が不可欠です。ケアマネジャーに自社の専門性24時間対応の有無特化分野などをしっかりアピールするとともに、地域イベントやセミナーへの参加、ホームページやSNSでの情報発信を積極的に行いましょう。


地域の医療・介護ネットワークに組み込まれることで、安定的な利用者獲得と信頼関係の構築が可能になります。

⑨システム導入

近年、訪問看護ステーションにおいても、ICT(情報通信技術)の活用が進んでいます。

具体的には電子カルテを導入するなどがあげられます。従来の紙カルテに代わり、電子カルテを導入することで、業務効率化、情報共有の促進、医療安全の向上などが期待できます。

他にも、テレナーシングは情報通信技術を活用した遠隔医療の手法の一つです。訪問看護師が、利用者様の自宅にいながら、医師の指示や助言を受けることができます。

⑩リスク管理とサービス品質の維持

訪問看護では、医療事故や感染症対策、個人情報保護など複数のリスクが存在します。標準手順書(マニュアル)を作成してスタッフに周知徹底し、定期的な研修を行うことで、不測の事態に備える必要があります。


さらに、苦情対応やクレーム処理のフローを明確にし、コンプライアンス体制を整えることで、利用者や家族、地域からの信頼を得られます。これらの取り組みが長期的な経営の安定とステーションの評判向上に直結します。

訪問看護の独立開業で起こりがちな失敗例

訪問看護の独立開業で起こりがちな失敗例

独立開業の世界では、資金不足や利用者不足といったさまざまな失敗例が散見されます。訪問看護ステーションでも、黒字化できずに廃業するケースが後を絶ちません。

資金ショートと人材不足

開業前の収支計画が甘く、初期投資や運転資金を十分に確保できないままスタートすると、売上が安定する前に資金ショートに陥る可能性があります。また、看護師やリハビリ職が集まらず、サービスを拡充できないまま経営難に直面することも少なくありません。

定期的な事業計画の見直し

事前に損益分岐点必要訪問件数を正しく把握し、採用戦略や営業活動を計画的に進めることが肝要です。さらに、行政の助成や専門家のコンサルを活用して、リスクを最小限に抑える方法も検討すべきでしょう。

訪問看護ステーションの独立開業は、高齢化社会において非常に意義のある事業であり、在宅医療を必要とする方々を支援しながら、持続的なビジネスモデルを構築できるチャンスでもあります。

しかし、開業資金の確保から人材採用、安定した利用者獲得、法令遵守まで、多くのハードルを乗り越えることが求められます。

まとめ

訪問看護ステーションの独立開業は、社会貢献性が高く、やりがいのある事業です。高齢化社会の進展に伴い、訪問看護のニーズはますます高まっており、事業としての将来性も期待できます。

しかし、経営リスクや責任も伴います。開業を成功させるためには、綿密な事業計画、適切な資金調達、優秀な人材の確保、質の高いサービスの提供、そしてリスク管理体制の構築が不可欠であり、ICTの進化など、外部環境の変化にも対応する必要があります。独立開業は、挑戦とやりがいのある道です。困難もありますが、適切な準備と努力によって、社会に貢献し、事業としても成功を収めることができるでしょう。

UPDATEでは、訪問看護のマネジメントを学ぶ『訪問看護マネジメントスクール』や『企業内研修』を提供しております。訪問看護ステーションの経営に関してお悩みの管理者や経営者の方はぜひお気軽にご相談ください。

小瀨文彰プロフィール写真(株式会社UPDATE 代表取締役)
株式会社UPDATE 小瀨 文彰
株式会社UPDATE 代表取締役(看護師・保健師・MBA) ケアプロ訪問看護ステーション東京にて新卒訪問看護師としてキャリアスタート。その後、訪問看護の現場・マネジメント経験の他、薬局や訪問看護運営するスタートアップ企業で40拠点・年商65億規模の経営を行い上場企業へのグループインを実現。現在は医療職マネジメント人財を育成するためマネジメントスクールを運営中。